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家蓄飼料 抗生物質の常時添加やめよ
通信813号資料記事
全国獣医事協会議会副会長・獣医師八竹昭夫
 豚や鶏などの食肉が、抗生物質に抵抗力をもつ耐性菌に汚染されている問題が最近、話題を呼んでいる。食べた人間が耐性菌に感染し、医療に悪影響がでないかというのだ。遅ればせながら農林水産省も対策に着手。耐性菌を生む抗生物質の飼料への添加に対し規制に乗りだした。これに動物薬品業界などが反発。対立は激しさを増している。
 農水省や厚生労働省によると、国内での畜産・水産に使われる抗生物贅は年間1084d(医薬品909d、飼料添加物175d)に及ぶ。医療で人に使われる量(年間517d)の倍以上だ。
 なぜ、こんなに多いのか。経済効率を重視した集約的飼育で環境が悪化した結果、発生する病気への対応と、発育の促進という、二つの理由が大きい。
 食肉の耐性菌問題は今に始まったことではない。69年、イギリス議会に提出されたスワンリポート(エデインバラ大学のスワン博士をチーフとする調査委員会報告書)は、すでにその危険を警告している。
 そのイギリスでは90年代になり、感染を防ぐために日光や外気を遮断して抗生物質を大量に使った養鶏に限って、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)というスーパー耐性菌が発見された。これらの耐性菌はデンマークなど他の欧州連合(EU)諸国にも飛び火した。
 一方、米国では最も権威ある医学誌「NEJM」が01年、同国内で売られる鶏肉や豚肉の多くが耐性菌に汚染されているとの調査結果を載せ、注目された。
 しかし、対応はEUと米国ではまったく違う。EU諸国が家畜用飼料への抗生物資の常時投与を中止する方向なのに対し、米国は人体への影響には科学的な根拠がないとして、投与を続ける姿勢を崩さない。
 わが国では、農水省が昨年秋、飼料への抗生物質の添加見直しの議論を始めた。対照的に動物薬品業界は、今春から効能面のPRにカを入れる。また、日本獣医学会と日本学術会議は「耐性菌問題を考える会」を立ち上げ、先月21日、シンポジウムで国による規制に疑問を呈した。
 抗生物質について業界や学会は、感染予防と成長促進に加え、@飼育を省力化し安価な肉を消費者に提供できるA耐性菌発生の危険はあるが、人の生死につながるリスクは低いB規制した欧州では家畜の病気が増えている…などの理由から、使用を継続するよう主張する。
 しかし、「抗生物質の投与ありき」の蓄産が健全だとはとても思えない。土や太陽、空気、水といった自然の力を尊重したやり方を考えるべきではないか。
 かつて、病気の多発に悩む養豚農家から抗生物質投与の指示書発行を求められ、それに応える代わりに換気扇の取り付けを指導した経験がある。それだけで豚舎の衛生状態は劇的に改善され、病気は減った。
 抗生物質を使わなければ、農家に余計なコストがかかるかもしれない。しかし、薬に依存しきった畜産は、耐性菌の登場という現象に象徴されるように、やがて人類を不幸に導くのではないか。苦しくても別の方法を探ることが肝要だ。
 そこで提案したい。とりあえず、飼料への抗生物質の常時添加をやめよう。家畜が病気の時はやむを得ないにしても、平時はできるだけ自然な畜産を心掛けたい。

朝日新聞「私の視点」記事(2003年12月25日)より転載
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