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生産者のわからない米を食べるのはやめませんか!
オルター通信1062号 記事
(週刊現代 2008/10/4より転載)

「汚染米」の毒は脳に蓄積する
農水省「健康への影響はない」のウソを暴く
長年にわたって人体を蝕む恐怖!
●微量であってもアレルギー反応を招く 危険が
●時間をかけて神経を冒し精神症状を引 き起こす
●DNAに直接作用し肝臓がんに
  (ジャーナリスト 椎名玲)

 「食卓の安全」を脅かしている米販売会社『三笠フーズ』による「汚染米」の不正転売。同社は有機リン系殺虫剤「メタミドホス」や、発がん性のカビ毒「アフラトキシンB1」などに汚染された事故米を、偽装した挙げ句に、食用として西日本を中心に販売していた。農林水産省は健康被害はないと主張するが、それはまったくの詭弁だった。

 農水省は9月16日に汚染米の流通先を公表。外食産業や和菓子・米菓子の加工業者、給食産業などその数は、375社にのぼった。焼酎や、老人ホームや保育園、中学校の給食、コンビニやスーパーの弁当、餅や米菓子、味噌や醤油、ブレンド米として日本全国で消費されてしまったようだが、全容解明には至っていない。「流通経路が複雑なので、今後、公表した会社以外にも、流通先の会社が現れるかも知れません」(農水省・食糧部消費流通課)
 そもそも問題となった事故米とは、基準値を超える農薬が検出されたりカビが生えたりしているため、食用に適さないと判断された輸入米のことだ。これは、'93年にウルグアイ・ラウンド合意により、日本が輸入を義務づけられた、いわゆるミニマム・アクセス(MA)米の一部である。「輸入先は米国、タイ、ベトナム、中国、オーストラリアなど。MA米は年間77万t以上にものぼり、国内の米価に影響しないように、いったん倉庫に保管されてから、2〜3年後に出荷されています。その3割が味噌や醤油、菓子など加工食品の原料として用いられ、主食用に販売されるものが1割程度。残りが在庫となります」(農水省関係者)

●ウツや痴呆を進行させる
 だが、輸入米は残留農薬違反やカビの発生も多く、年間2000t以上もの米が「事故米」となる。この米の用途は、非食用の糊などの工業用だけしか認められていない。
 だが三笠フーズらは、こともあろうに利ざや目的で、この事故米を食用としていたのだ。その量はわかっているだけで1020t。これらの米は、「アフラトキシンB1」や「メタミドホス」、ネオニコチノイド系殺虫剤「アセタミプリド」が残留基準値(0.01ppm)の5倍も検出されている「汚染米」である。
 太田誠一農水相は、「人体に影響がないことは自信をもって申し上げられる」と、のんきな発言をしているが、農薬問題に詳しいNPO法人「食品と暮らしの安全基金」代表・小若順一氏は、農薬などの化学物質は人によって1000倍ほど反応に差があるため、楽観視できないと指摘する。 「有機リン系の農薬は、アレルギーなど化学物質過敏症の人には、微量でも症状がひどく出ることがあります。たとえば、アレルギー体質の人なら、国産小麦のパンを食べても湿疹が出ないのに、輸入小麦を使ったパンを食べると、微量のポストハーベスト農薬によって湿疹が出てしまうことがあるんです。
 また、免疫力が弱い子供、老人にも影響が出る可能性があります。保育園では湿疹が出た子供がいるかもしれないし、介護老人施設だとウツになって痴呆が進行するということも考えられる。まして、病院食として病人も食べていたとすれば、ただでさえ解毒機能が弱まっているので、よく調べてみれば影響が出ているんじゃないでしょうか」
 三笠フーズが出荷した汚染米による健康被害はまだ今のところ報告されていないが、老人ホームや病院では心理的な不安を訴える人がいるという。小若氏は、農薬やカビの健康被害は、すぐには発生せずに、何年もかかって症状が出ることもあると指摘する。「アセタミプリドなどの神経毒性がきわめて強いネオニコチノイド系農薬は、脳に蓄積して、キレやすくなり、暴力、犯罪衝動を引き起こすと指摘されています。一方、メタミドホスのような有機リン系農薬は精神に強い影響を与え、ウツになって自殺衝動を引き起こすといわれています」
 メタミドホスは、中国産の毒ギョーザ事件で話題になった物質。一度に大量に摂取すると、吐き気や発汗、瞳孔の縮小などの症状が現れ、ひどいときには呼吸障害から昏睡、死に至ることもある。
 アフラトキシンは、船便で送られてくるナッツ類によく見られるカビであり、貯蔵条件が悪いと穀物類にも発生する。DNAに直接作用して、主に肝臓がんを引き起こす猛毒だ。このカビは耐熱性も強く、250度以上に加熱しないと分解しない代物。このため、港湾作業者には荷物を扱う際に、アフラトキシン対策としてマスクの着用が義務づけられているほどである。
 また食品の安全問題に詳しい元東京都消費者センター試験研究室長の増尾清氏は、今回の三笠フーズの汚染米転売を、「農水省は見て見ぬふりをしてきたはずだ」と喝破する。
「私は、長年、新米に古米が混ぜられている実態を検査するなど、米卸販売業者とずいぶん戦ってきました。その中で感じたことは、農水省は米を扱う業者には、検査や指導がずいぶん甘いなということです。新米に古米を大量に混ぜて堂々と新米と表示して売る業者や、産地偽装を繰り返す業者が絶えることがない。
 今回の汚染米は、農水省にとっても保管にお金がかかるし、処分するにもお金がかかる。どんな業者でも、引き取ってくれるほうがありがたかったんです」
 農水省は'04年以降、三笠フーズに96回もの立ち入り検査を実施していたにもかかわらず、違法転売の事実を明らかにすることはできなかった。農水省の検査態勢が杜撰(ずさん)だったと言われても仕方がない。「1kg10円以下で仕入れた米が、食用に転売すれば100円以上になるのですから、こんなにおいしい商売はない。農水省が汚染米の用途に無関心なのをいいことに、業者の間では不正な転売がかなり以前から行われていたのではないでしょうか」(増尾氏)
 しかも、あきれることに、汚染米の落札業者のリストは'03年以前のものは残っていないという。農水省に問い合わせても、「'03年以前は、どこが落札したかなどの資料が残っておらず、まったくわかりません」(食糧部消費流通課)と回答する。 これでは汚染米の転売が、いつ頃から行われていたのか調べることなどとてもできない。
 汚染米の転売は、MA米が備蓄される'93年頃から行われていた疑いが濃いが、それ以前から、国産の「汚染米」が市場に流通していたのではないかと疑問を呈するのは、消費者問題研究所代表の垣田達哉氏である。「それは『カドミウム米』と呼ばれるもので、カドミウム濃度が基準値よりも高い米です。カドミウムは骨軟化症を引き起こす毒性の高い重金属。日本の場合は土壌的にどうしても作物のカドミウム濃度が高くなりやすい傾向があり、'70年から国はカドミウム濃度が0.4ppm以上1.0ppm未満の米を農家から買い上げています」
 鉱山開発を繰り返してきた日本では、長年、採掘作業時に出る排水や廃棄物が河川に流され、下流の農耕地を汚染してしまった歴史がある。こうした事情から地域によってはカドミウム濃度が高い米が生産されてしまう。こうしたカドミウム米は一度、国が買い上げ、非食用として民間に売却しているのである。
 だが'00年、秋田県では、検査でカドミウムが検出された汚染米約5tが、回収されずに食用として流通した事件が起きている。

●カドミウム米も不正に転売か!?
 また垣田氏は、国が買い上げたカドミウム米が、過去に民間企業によって不正に転売された可能性もあるのではないかと指摘する。
 '04年からカドミウム米を農家から買い上げている農水省の外郭団体『全国米麦改良協会』に、カドミウム米を買い上げてきた業者名を教えてほしいと問い合わせた。しかし、「業者名は教えられない。非公開である」という返答だった。
 また農水省にも、カドミウム米が食用に転売されている恐れはないのかと聞いたが、きっぱりと否定する。「買い上げたカドミウム米は、大前提として、工業用の糊としての使用しか認めていません。入札する前にこちらでパウダー状にして、さらに、見た目でカドミウム米だとわかるようにベンガラと呼ばれる着色料で真っ赤に色づけを行います」(農水省・消費流通課)
 毎年1000t以上も買い入れられているカドミウム米が厳正に管理されているのかどうか、三笠フーズの事件を見れば、農水省の言い分を百パーセント信用することはもはやできないだろう。さらに言えば、なぜ国はカドミウム米で行っている手順を、今回の汚染米では行っていなかったのか。最初から、パウダーにして色づけしておけば、今回のような事件は起きなかったであろう。
 また、「汚染米」として疑わしいものはカドミウム米だけではない。中国産の安全性未審査の遺伝子組み換え米が、和菓子に加工されて販売された事件が、'07年に発覚している。
 当時の福島県の発表によると、福島県伊達市の菓子製造会社が、'06年12月から'07年1月までに製造した大福に、中国産の遺伝子組み換え米が混入していたという。一日1万個の大福を、九州を除く33都道府県に出荷していた。同メーカーは自主回収するといったものの、とっくに消費期限が過ぎていたため、ほとんどが食べられてしまったのだ。

●危険な中国米の遺伝子組み換え
 この遺伝子組み換え米は、中国でも認可されていないもの。まだ研究段階のもので、中国の研究機関が試験栽培を行っていたが、食用としては安全性に問題があると多くの専門家から指摘されていた。 だが、驚くことに、そこの研究員が勝手に稲苗を持ち出し、稲苗業者に転売。さらに、その業者が苗を中国の農家に売りさばいていた。こうして、この遺伝子組み換え米は、中国湖北省において2年間栽培され、その一部が日本に輸入されたのだ。 問題は、国がこの事実を把握していながら、何の対策もとらなかったことだ。  「三笠フーズの問題も国は、昨年1月に内部告発の手紙を受け取っていながら、放置しました。なにもかも大事にならなければ動かないという姿勢には、あきれるばかりです」(垣田氏)
 一方、汚染米を三笠フーズから購入した業者は、どこも「事故米だとは知らなかった」と憤りを露にしている。しかし、消費者として同情する気にはなれない。なぜならば、食を扱う業者として、一番大切な「食材を見る目」が欠けているからである。 「焼酎などの酒造りにも汚染米が使われていた。しかし、いい酒を造るためには、麹の原料である米の品質が命です。本当の酒作りのプロならば、原料の米の品質など見分けられるはずですが、それができない酒造メーカーばかりだった。プロの職人がいなくなってきたということで、嘆かわしい。業者の中には、訳ありの米だとわかって購入したところも多いはずです」(増尾氏)
 国民の怒りも収まらないだろう。それは、農水省と、三笠フーズをはじめとする転売を繰り返していた業者が、あまりにも消費者を軽視しているからにほかならない。



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