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民衆貿易で国際支援 マスコバド糖
カタログ‘2009年5月3週号’
サトウキビを丸ごと搾り、
ゆっくりと煮詰めて自然乾燥させた伝統的な黒砂糖。

●ネグロスキャンペーン

 マスコバド糖(フィリピンの伝統的な製法の黒砂糖)の日本への輸入は、貧困と飢えに苦しむネグロスの子供たちを救おうと、1986年に私が始めました。
 フィリピンの中部にあるネグロス島は、同国最大の砂糖生産地で、肥沃な土地のほとんどがサトウキビプランテーションに占領されてきました。1980年代初め、人工甘味料(とくにトウモロコシから作るコーンシロップ)の登場などでサトウキビの国際価格が暴落し、ネグロス島では奥地の非効率な畑から耕作が放棄されていきました。島民のほとんどが砂糖産業に依存して生活していたため、職を失いました。
 しかも長年のプランテーション占領下の労働を強いられており、サトウキビ栽培以外の農作物作りの経験、種子、道具を持たなかったため、そのまま飢えに苦しむ事態となりました。人口約350万人の30%が飢餓状態となり、栄養失調や病気で年間1000人以上の子どもが死にました。そのため、現地のキリスト教関係者、医師らで構成するCDRC(市民災害復興センター)や日本の宗教関係者、学者らが呼びかけ人となって組織した日本ネグロス・キャンペーン委員会が救援活動に乗り出しました。

●「ばななぼうと」がきっかけ

 その頃、私が主催した市民運動の洋上サミット「ばななぼうと」の準備中に、私は日本ネグロス・キャンペーン委員会堀田正彦事務局長と出会い、そのネグロスの窮状を知って「カンパに頼る救援だけではどうしても取り組みが弱い。現地の生産物を民衆自らの力で貿易し、そこから恒常的に救援資金を生み出すべきだ」と、オルタートレード(民衆貿易)を提案しました。そして日本ネグロス・キャンペーン委員会の案内でネグロス現地を訪問し、島の唯一の基幹作物で、当時それしか生産物らしいものがなかったサトウキビ、すなわち伝統的な製法のマスコバド糖をもって民衆と民衆の直接貿易を1987年より開始することにしました。飢えで苦しむネグロス島民と食品公害で苦しむ日本の消費者が相互に助け合う民衆貿易が始まったのです。
 この活動は、その後九州の生協・グリーンコープの協力を得て設立されたオルター・トレード・ジャパン(ATJ)に受継がれ、マスコバド糖、バランゴンバナナ、エコシュリンプなどへ発展していったのです。現地では、これらの活動で得た資金で農業研修センター建設など自立へ向けたプロジェクトを次々に立上げ、さらに作物の種子、農具、カラバオ(水牛)など農業を始めていくためのインフラ整備に利用し、農民や漁民の経済的自立に役立っています。
 ネグロスの状況は、まだまだ砂糖プランテーションに従属せざるを得ない現状が続いていますが、野菜を栽培する農家が生まれ、その流通が始まるなど、規模はまだ小さいものの希望の芽が出てきています。


ATJ(オルター・トレード・ジャパン)のマスコバド糖
●サトウキビの栽培
  ネグロスではサトウキビは粗放に栽培されており、もともと高価な農薬や化学肥料には頼らないで作られてきました。輸入を開始した当時、細々と残っていたネグロスでの砂糖の伝統的な製法は、このサトウキビを水牛が引く搾汁機で搾り、珊瑚礁のサンゴ(炭酸カルシウムCaCO3)を加えて煮て作るというものでした。
  ネグロスの元砂糖労働者たちは、徐々に進む農地改革で手にしたサトウキビ畑の有機栽培化を進めています。それがマスコバド糖の原料になっています。
 ネグロス現地のATMC社(Altertrade Manufacturing)は1995年よりBOCP(有機サトウキビ栽培転換)プログラムを5ヶ所の地域で開始し、その生産物をマスコバド糖の原料としてきました。ATMCは、BOCPプログラムを通して有機農業の普及を目指しています。現在はATFI(オルタートレード財団)が必要に応じて資金や技術協力を行い、収穫されたサトウキビはATMCがマスコバド糖用に買い上げています。
  農業プログラムの中身は、単に有機肥料を使用するだけではなく、地域の自立をめざして、様々な農法を組合わせた複合的なものです。例えば、薬草などを利用して作られた害虫駆除剤や除草剤の利用、病気に強い品種の採用、適切な追肥、他の作物との混植といった総合的な農業管理にも目が向けられる様になってきました。その大半がIMOのオーガニック認証を取得し、一部は転換中です。
 現在、18の生産者協会のメンバーたち855家族がマスコバド糖用サトウキビを出荷しています。土地条件によっては、バランゴンバナナの有機栽培と一緒に取組んでいる地域もあります。日本への出荷を通して、こうした持続的・循環型の農業が作られ、広まっていく事が、農民たちの自立にも繋がっています。

●製糖工程
 収穫されたサトウキビは、枯れ葉やゴミが手作業で取り除かれます。昔は水牛で搾汁していましたが、現在では電動式の搾汁機で搾っています。また、煮るときにサンゴではなく石灰(CaCO3)を使っています。
 搾ったサトウキビジュースは大きな釜でゆっくりと煮詰めます。その間に浮いた不純物や沈澱物を丁寧に取り除きます。初めて輸入した時はサンゴの異物が残っていたためザリザリ感があり不評だったことがありましたが、現在はフィルターで濾過をしているのですっかり安心になりました。2007年には新工場が完成し、ステンレス製の蒸気で加熱できる密閉釜や、釜から乾燥台への自動流し込み機などの設備が稼働しています。
 水分が自然に飛んでシロップ状になったころ、乾燥台に移します。シャベルを使って人力でサッサッサとかき混ぜて、粉末状態に自然乾燥させます。これが風味を逃さないコツなのです。
 マスコバド糖は、糖蜜分離も精製もしていませんので、サトウキビに本来含まれている豊かなミネラルをはじめ、栄養素もそのまま含まれています。マスコバド糖は本来のネグロスの砂糖作りを人々の手に取り戻すと同時に、食べる人にも安全でおいしい本物の砂糖を提供します。そして、ネグロス民衆の農村作りの支援となっています。

●使い方
 マスコバド糖のコクのある味は、煮物などの料理を引き立ててくれます。すき焼き、豚肉と野菜のコトコト煮にもどうぞ。コーヒーや紅茶にはもちろん、お菓子作りには独特の香りが風味を添えてくれます。とくにアイスコーヒー用におすすめです。


市販の黒砂糖の問題点
 本来はカルシウムが豊富な黒砂糖は食べても虫歯になることはありませんでした。しかし今の黒砂糖では虫歯になるのが珍しくありません。なぜなら外国から安く入る粗糖を精製した安い白砂糖で増量し、さらにカラメル着色して黒くみせているだけだからです。
 この白砂糖増量以外にも市販の黒砂糖にはいろいろと問題があります。古くなった黒砂糖を新物に戻して炊き直したりもしています。また、化学肥料を多投して栽培したサトウキビ(糖度が低く、亜硫酸塩などのあくが多い)の汁は炊き上げるのに時間が長くかかるため、カラメル化して黒くなり、真っ黒な黒砂糖になってしまいます。良質の黒砂糖は真黒でなく「淡い黄緑色」か「淡い茶褐色」になるはずなのです。



―文責 西川栄郎(オルター代表)―


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