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「健康エコナ」の発売中止!
通信906号記事
発がんプロモーターと消費者の健康 ―「健康エコナ」のケース―
京都バイオサイエンス研究所 西岡一(医学博士、同志社大学名誉教授)
2005年11月7日消費者リポート第1312号より記事転載

「健康」クッキングオイルの登場
 肥満や生活習慣病と密接に関係するのが、体脂肪、中性脂肪、コレステロール。だから、これらの原因となる食用油などの脂肪分の摂りすぎは好ましくありません。でも、ドレッシング、マヨネーズ、天ぷら、ラーメン、トンカツ、コロッケ、スナック菓子など、私たちの食生活に食用油がついて回るのも事実です。
 そこで登場したのが、体脂肪などが付きにくいとされる「健康」クッキングオイルです。
 テレビのCMでも、その健康効果が盛んに宣伝され、スーパーの棚にはずらりと並んで売れ筋となり、そのセットはお中元やお歳暮の定番となっています。もし、クッキングオイルにこのような健康効果があれば、私たちにとってはありがたいことに違いありません。では、こうしたクッキングイルはどうして体脂肪などを付きにくくするのでしょう?
 そのわけは、天然の植物油などに微量含まれているジアシルグリセロール(DAG)という物質が働くからなのです。
 しかし天然に存在する程度の量では、体脂肪などの付着を防ぐ効果はあまり期待できません。そこで効果的に体脂肪の付着を防ぐために、この物質を化学合成し、高濃度のクッキングオイルとして使用することが考えられたのです。
特定保健用食品とは 
 大手食品会社の花王は、この化学合成されたDAGを80パーセントも使用したクッキングオイルなどを「健康エコナ」と称し、厚生労働省に特定保健用食品(「特保」と呼ばれる)として申請しました。1998年にはこれが承認され、お馴染みのテレビCMとともに一斉に販売を始めました。価格は一般の食用油の3倍ほどにもなりますが、「健康に良いのなら」と誰もがスーパーなどで買い求め、花王は大きな利益を上げてきました。多くの家庭では、まるで薬品のようなこのクッキングオイルを健康に良いと信じて、天ぷら、ドレッシングなど、あらゆる調理に使用し、子どもから大人までの誰もが体に入れています。
 二十数年以上も前からアメリカでサプリメントブームが始まりました。いわゆる健康補助食品です。当初、私たちは、伝統的な正しい食生活さえしていれば、健康補助食品なんて不必要だと、このブームを批判的に見ていました。
 しかし、加工食品の大量生産、大量流通がますます進み、コンビニやファストフードなどは誰にも身近な存在となり、正しい食生活はかなり難しいことになりました。
 一方、活性酸素による健康障害やこれを防ぐ抗酸化作用、それに体脂肪の燃焼などのメカニズムが明らかとなり、サプリメントは健康維持やダイエットに有効と考えられるようになりました。そして日本でも「特保」が認知されたのです。
 「特保」は、植物エキスなど天然由来のものが普通ですが、DAGは例外的に化学合成物質です。メーカーにすればよく売れるためには、よく効くものを作り、販売したいわけです。だから、「健康エコナ」のように、成分のほとんどがDAGというようなクッキングオイルが登場するのです。
 それに「健康エコナ」に合成化学物質のDAGが使用されているにもかかわらず、大豆とナタネからできていると表示されているのは問題です。
発がんプロモータとは 
 がんは2段階で進行すると考えられています。第1段階はイニシエーションで、いわばがんのキッカケで、細胞の遺伝子DNAが発がん物質(イニシエーターと呼ばれる)によって損傷されて始まります。
 03年度の厚生労働科学特別研究事業として行なわれたDAGの発がんプロモーション作用の実験では、イニシエーターとして、4-ニトロキノリン 1-オキサイド(4NQO)が10ppm使用されました。
 発がん物質で生じた損傷は多くの場合、修復されますが、修復されずに残った場合、第2段階のプロモーションで促進されます。この促進因子がプロモーターです。プロモーターが数年から十数年にわたって作用し続けると、がん細胞は塊となり、がんが発症するのです。
 実は、このDAGは発がんプロモーターではないかと疑われていました。事実、2003年6月の厚生労働省の審議会で、この物質が発がんプロモーターである可能性が議論されています。
 しかし、03年9月11日、内閣府の食品安全委員会は「DAGの安全性には問題はない」としたのです。
 04年3月、厚生労働科学特別研究事業として、国立がんセンターで行なわれた「ジアシルグリセロール(DAG)の発がんプロモーション作用に関する研究」の総括研究報告書(主任研究者 飯郷正明)が提出されました。この報告で、DAGにはラットの舌の扁平上皮がんのプロモーション作用があることを認めたと報告しています。
国民の健康を全てに優先せよ 
 「健康エコナ」のようなクッキングオイルは、あらゆる調理に使用され、しかも長期にわたって食べ続けることになり、発がんプロモーターの条件を完全に満たしています。
 実は、発がんプロモーターだからといって食品などへの使用が禁止された例は、世界的に見て必ずしも多くはありません。これはプロモーターだけでは発がんしないので、発がん物質とはいえないこと、実験方法や結果の判定がやや困難であることなどが理由です。
 しかし、食品に添加される物質、タバコの煙、自動車の排気ガスなど、私たちの周辺には、微量ながら無数のイニシエーターが存在します。この状況で、国民という大集団に、新しくDAGというプロモーターが作用し続けると、この集団のがんが増加する可能性を否定できません。
 今回の厚生労働科学特別研究事業として行なわれた実験結果をみて、DAGは明瞭な「黒」と私は判定します。
 05年9月20日、厚労省は食品安全委員会に、DAGの食品健康影響評価を要請しました。しかし、国民の健康を優先するなら、現時点でDAGの「特保」の認定を取り下げ、「健康エコナ」の販売を中止すべきではないでしょうか。
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