通信販売の法規(特定商取引に関する法)に基づく表示

BSE・うつ病・キレル子どもたち金属イオンと神経疾患(1)
通信872号資料記事
BSE対策には「全頭検査」が不可欠だ! −その理由を化学的に解明する− 
2004年11月27日日本有機農業研究会講演録
 講師: 西田雄三さん(山形大学理学部教授)

BSE、うつ病、キレル子どもたち、の原因が金属イオンと関係しているのではないかという重要な知見が日本有機農業研究会の機関誌「土と健康」(2005年No.368・369)に発表されました。全文をオルター通信に連載します。  
( 代  表 )


◆ 病気はすべて化学反応
 現在「米国産牛肉解禁」が差し迫っておりますが、BSE(牛海綿状脳症)における異常プリオンと発症との因果関係、またBSEの人間への感染の有無とその機構がはっきりしていなくて、消費者は非常に困惑していると思います。はっきり言えば、この問題は、BSE発症の化学的機構が明らかにならなければ決着のつかない問題で、日本の厚生労働省・文部科学省・通商産業省などがなにを言っても全く信用できないのが現状です。
 それでは、われわれは何もできないのかというと、そんなことはありません。BSEの発症過程を化学的に採る研究は続けられておりますので、その結果によっては、それなりの対応は可能となります。ただ、それらの研究結果が出ても、われわれが満足できる対応を行政には期待できないことも、あとで水俣病を例にして述べたいと思います。
 私は、「BSEの発症過程を化学的に解明する」という大きな目標で、ここ十数年、大学で研究を続けてきました。ただし私は、医学部ではなく、理学部の教官です。このことを奇異に思われる人も多いのですが、BSEを含めて病気は、生命反応の一部ですので、すべて[化学反応]です。
 この[化学反応]の機構を調べるには化学者、またBSEなどの神経疾患には金属イオンが大きく関与していますので、絶対に化学者でなければ解明できない部分が多いのです。もちろん、医学者による医学的な解明も必要で、多方面の協力があって、初めてこの難解な病気を克服できると思うのですが、[化学者]の言い分はまったく採用されていないのが現状です。                
 ここで、私は「BSEの化学」を展開し、皆様と一緒にこの難病に向かいたいと思っております。
  先に述べたように私は、金属イオンがこれらの神経性疾患に大きく関与していることを化学的に明らかにしましたが、それと同時に、その原因が最近問題となっている「うつ病」・「キレル子供たち」の増大の原因と同じであることに気が付きました。これは、うがった言い方をすれば、牛はBSEで、鹿はCWDで、人間は[うつ病・キレル症候群] で悩んでいるという、同じ次元での問題が起きていると考えれば不思議でもありません。
 ですから、「BSEの化学」をあきらかにすることは、人間の[うつ病・キレル症候群の化学]を明らかにすることでもあります。この問題については最後の項で詳しく述べたいと思います。
◆ 水俣病の教訓---行政は何もしない、できない
 多くの人が知っているように、今から40年程前、水俣湾の近くで多くの動物、猫、魚などに奇形が見られるようになりました。原因は、近くで営業していたチッソ水俣工場が捨てている有機水銀であろうということは、医学的にはほぼ確立していました。しかし、″有機水銀と水俣病との因果関係″が確立していない、ということで、長い間、工場からの水銀の放流をとめることができず、非常に悲惨な結果を招いてしまった。この場合、因果関係とは、水俣病の発病過程の化学的機構を確立することです。
  この化学的機構の確立は、今回のBSE問題でももっと重要な問題ですが、しかし、患者個人個人について「化学的機構を確立」するということは人体実験を意味しますので、これは不可能です。
  このように考えれば、医学的な事実・化学的機構の確立ができたとしても、行政は何もしない、できない、ということを認識しておく必要があります。こうなれば、我々が自分自身で対応策を考え実施するしかないという、強い決意が必要です。
◆ BSEの病気としての特徴--- 神経疾患の原因は蛋白質の変異
 BSEなどは神経疾患と呼ばれ、ほかのいろいろな病気、たとえばインフルエンザウイルス、HIVなどとは区別されています。それは病気の発症機構、感染方法がまったく違っているからです。冬になると、インフルエンザウイルスで風邪を引きますが、そういう病気では、いわゆるウイルスという病原菌が人間の体の中に入り、自分で増殖しようとします。もちろん人間はそれを阻止するわけですが、その戦いに勝てば風邪は引かない、負ければ風邪を引くという現象が起きます。これらの病気の特徴は、要するにウイルスという外来菌が体の中に入って発病します。厳密に言えば、インフルエンザウイルスがいない部屋で生活すれば風邪を引くことはありません。もちろんそのようなことは現実として不可能ですが。
 しかし、BSEをはじめとする神経性疾患では事情がまったく異なります。この種の病気は、人間が生活するうえで必要な蛋白質、その蛋白質がいろいろな理由で変形したり、切れたりすることで発病するのです。発病が嫌だからといってその蛋白を除去することはできません。そうすれば、自分の生命活動に支障が出るからです。
 例として、BSEと並んで神経性疾患の一つである筋萎縮性側索硬化症 (ALS) について述べてみましょう。ALSはご承知の方も多いとは思いますが、重度の運動障害で、発病が確認されますと、短時間で死にいたる難病です。適当な治療法も無く、これで悩んでいる患者さんも多いと聞いています。さて、この病気の患者さんですが、一般的には孤発的ですが、ある地域に特異的かつ集団的に発症しています。そして、その10%前後が、遺伝的です。これらは、遺伝であることを示すために、家族性筋萎縮性側索硬化症 (FALS)と呼ばれています。
図−1 SODの構造 (a)アミノ酸配列  (b) (c)二量体構造
◆ ALS発症と金属イオンの関係を化学的に解明
 この家族性筋萎縮性側索硬化症について、詳細な研究が行われました。その結果、脳の運動神経細胞に多くあるSODという酵素に変異がみられ、そのために遺伝することが明らかになりました。SODというのは、通称名で正確にはスーパーオキサイドジスムターゼ (Superoxide Dismutase)と呼ばれる酵素で、これは皆さんの脳で非常に重要な作用をする蛋白質です。
 われわれは運動するときに、そのエネルギーは酸素分子の水への4電子還元という反応を利用して得ています。このとき、生成物は水ですので、生体にはまったく害が出ません。しかし生体反応というものはすべて理想的には進行しないもので、酸素分子を使う反応の途中で1電子還元された種、スーパーオキサイドイオンが生成します。これは生体にとっては危険なものの一つ(いわゆる活性酸素種)で、これを分解する酵素がSODなのです。
  このスーパーオキサイドイオンと直接反応して、その分解反応を行うのは銅(U)イオン(下式参照)で、ここで初めて金属イオンが登場してきましたが、このように生体の重要な反応の多くのところで金属イオンが顔を出しますので、よく覚えておいてください。
   Cu(U)+ O2 → Cu(T) + O2
    Cu(T)  + O2 → Cu(U) + O2 
 この反応式で注意してほしいのは、最後の段階で過酸化水素(O2  )ができることです。これもスーパーオキサイドイオン同様に活性酸素種のひとつで、生体では危険なものですので、生成するや否や直ちにSODから切り離され、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシデーゼによって水と酸素に分解されます。このときも金属イオンの作用を利用しています。
 このSOD酵素ですが、蛋白ですので多くのアミノ酸からできています。人のSODでは約160個くらいのアミノ酸が結合したもの(図−1、(a) 参照)が、さらに二量体構造を形成して、酵素としての作用が発揮されます(二量体構造については、図−1、(b)、 (c)、参照)。要するにこのような構造でのみ、SODの機能が発揮されるので、この構造が少しでも乱れると、その活性が落ちてしまうのです。
  さて、FALS患者のSODと通常の人のSODの構造を比較すると明らかな違いが見られることが判りよした。明らかなのは、ある順番のところで本来あるべきアミノ酸とは違ったアミノ酸が存在し(A4V: 本来4番目はアラニンであるべきが、バリンになっている。G93A: 93番目は本来グリシンであるが、アラニンになっている。このようなSODを変異SODと呼ぶ)、そのためにSODの酵素活性が低下したり、二量体構造に異常(二量体構造が緩んでいる)がみられるようになる。これより「SODが変異し、酵素活性が低下し、二量体構造が緩み、その結果ALSが発症する」と医学的に説明がされてきているのですが、変異SODでなぜそのような現象が起きるかは解明されていませんでした。それは、このような現象を理解するには、銅(U)イオンに特有な反応を解明する必要があったからです。
 私は、変異SODでは、銅(U)イオンの周辺構造にわずかな変化が生じ、そのためSOD反応で生成した過酸化水素の切り離しがうまく進行せず、過酸化水素が銅(U)イオンと結合した状態で活性化され、SOD酵素の分解反応・修飾反応が進行してALSに導くということを、金属イオン専門の化学者(錯体化学と呼ぶ)の立場から明らかにし、ここで初めてALSの発症機構が理解されるようになったのです。このように神経性疾患の発症機構の解明には「錯体化学者」が必要であるという事実を認識してほしい。
 ◆ 牛、羊、鹿、そして人も発症機構はすべて同じ
 変異SODでみられる現象は、銅(U)イオンに結合した過酸化水素の活性化に由来することが明らかにされました。この結果から明らかになったことは、このような変異SODに見られる現象は、別に遺伝的でなくても生体内反応で起こりうるということです。つまり、生体内で過酸化水素が多量に発生する状況が起きれば、同じような現象が起きるということです。この現象を一般的には 「酸化ストレス」(後述)と呼んでいますが、これが生体内で起きますと、変異SODで見られたのと同じ現象が起き、ALS発症が導かれるということです。変異SODは、酸化ストレスで出現します。これが遺伝以外でのALS発症の原因の一つですが、これは充分にご理解いただけると思います。
 BSEの発症過程もALSと似ていることが判ります。すでにご承知のようにBSEはプリオン蛋白の異常が原因で起きます。いろいろな病名で呼ばれていますが、それは種が違っているそれだけの理由で、発症機構は全部同じです。
  プリオン蛋白は人間の場合、250個くらいのアミノ酸からなる蛋白質で、神経細胞のシナプス部位に多量に存在し、複数個の銅イオンを含んでいます(図−2参照。この点でSODと似ていることに注目してください)。その役目については多少不明な点もありますが、(1)銅イオンの輸送を行っている、(2)シナプス部位でレセプターとしての作用を行っている、と考えておけば間違いがないでしょう。   【 次号に続く】

図−2 シナプス上のプリオン蛋白。銅(U)イオンを含んでいる。
戻る