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「心理栄養学」  低血糖症学習資料
オルター通信 781号 資料記事
大沢博氏(岩手大学名誉教授)講演要旨
 出典: 二十一世紀食生活塾 2001・6・10講義録


 ●大沢博(おおさわ・ひろし) 
 1928年群馬県生まれ。岩手大学名誉教授。
 非行少年・登校拒否児とのカウンセリングに長年従事し、
 日本ではいち早く80年代より心の荒れと糖との関係を追究。
 講演や執筆を通じて
 「栄養カウンセリング」の必要性と重要性を訴える。
 
 著書に『食原性症候群』、『心理栄養学』、『食原性低血糖症』、『子どもも大人もなぜキレる』(いずれもブレーン出版)、『その食事では悪くなる』(三五館)のほか、訳書にシャウス著『栄養と犯罪行動』、エイローラ著『低血糖症』(いずれもブレーン出版)ホッファー著『ビタミンB-3の効果!精神分裂病と栄養療法−』(世論時報社)など多数。
◆ 栄養と精神疾患
 非常にショッキングだった大阪府池田市の小学校の事件。私の専門である心理栄養学の見地から考えてみたいと思います。この分野に携わっているのは、日本で私が唯一です。アメリカの学者の本に『サイコ・ニュートリション(心理の栄養学)』というのがありまして、この用語を使わせてもらっています。これは低血糖症について書かれたものですが、こういうものの他、栄養療法を支持した精神医学をこれまで学んできました。
 マイケル・レッサーという精神医学者の『栄養ビタミン療法』という本を私が訳し、序文をレッサーにお願いしましたら、統合失調症になり始めた学生への援助というのを書いてくれました。そこに「精神的エピソードが起こる直前は、どの患者もみんな食べられなくなっている、それから眠れなくなっている」ということが強調されています。まさに池田市の容疑者がこの通りでした。新聞記事によると、「体調が悪くて飯が食えない」と二年半ぶりに父親に電話して訴えたそうです。警察には「このところ眠れないので、ずっと起きていた」と話しています。
 レッサー博士は「飯が食えなくなる、眠れなくなる・・・すべての精神病患者はここから急激に悪くなる」と言っています。当然です。ところが、そういう状態について普通の精神科医はまず配慮しません。食べられないと点滴はするでしょう。しかし、そこに精神病薬を入れてしまうと、それによって参っていきます。
 『買ってはいけない』の著者、船瀬俊介さんは、精神病薬が原因で娘さんを亡くし、病院を訴えています。娘さんは学校に行けない状態から食べられなくなり、ついに水も飲めなくなった。それで点滴したのはいいのですが、抗精神病薬を入れられました。その時の説明が「副作用は便秘とかあくび等です」。それでお願いしたところ高熱が出てきました。抗精神病薬による悪性症候群の一番特徴的なのが発熱です。そういう症状が出たらすぐに打ち切るようにと精神医学の書物には書かれています。ところがその医師は、悪くなっていくにつれて、その薬を四倍に増やしました。そして遂に亡くなりました.栄養状態が悪く、脱水状態になっている時にこの悪性症候群になりやすいということが書かれています。この14歳の娘さんは食べられなくて水も飲めなかったというのですから、まさにこの状態だったわけです。
◆ 脳に大事なブドウ糖
 精神医学の方と話をしていますと、根本的に治すという発想がどうも見受けられません。栄養との関係について関心を持っている方はごくわずかです.
 立花隆さんの著書『脳を究める』には、体内のブドウ糖の代謝状態が写し出された写真が載っています。これを見ると血液によって送られたブドウ糖は、脳に一番多くいくことがわかります。脳は体中の糖の少なくとも18%は使っており、学習している時などはもっともっと使います。この脳にブドウ糖が十分に供給されないとコントロールを失うのは当然です。さらに酸素を運ぶのには鉄が必要、糖がエネルギーになるのにはビタミンB群が必要・・・と、脳が働くのにはすべての栄養素が必要なのです。
 要するに、食べ物できちんと栄養を摂っていないと、脳は生きられないのです。脳細胞にブドウ糖が届かなくなると脳細胞が死んでいく。それが拡がっていくと痴呆です。ところが痴呆の研究でも、食事をきちんと摂っているかという発想はほとんど出ないのです。研究者は薬、薬と薬ばかりです。
 日本人の食事の変化を「家計調査年報」から見ますと、昭和41年には米代がお菓子代の2倍以上だったのが、昭和62年にはお菓子に追い越され、どんどん差が広がって今はお菓子がお米の約2倍。米離れしてお菓子、お菓子です。特に子どもは影響が大きい。お菓子を食べればご飯を食べず、腹が減るとまたお菓子を食べる。朝からドーナツという子もいます。学生などはもっとひどいものです。
 日本人のブドウ糖の摂り方はお米、穀物からです。気力の「気」の字。これは本来「氣」で、中は「米」でした。これで気力が出るわけです。元気、やる気、色気・・・・。しっかりご飯を食べていないと健康な色気も出ませんね。そうすると病気、殺気、狂気・・・。柏崎の監禁事件の男が食べていたものは、カップラーメンに清涼飲料でした。そういうものばかり食べていたら、頭がきちんと働くような栄養補給ができるはずがない。けれども、そういうことはほとんど問題にされていません。児童相談所や精神科医というのは「心だ、心だ」、そして「カウンセリング、カウンセリング」。問題行動と食事という考えは全然ありません。虐待の問題もそうです。話を聞くのもいいですが、今現在、脳がしっかり働くような食事をしているかも、大きな仮説として立てていいのではないでしょうか。

◆ 日本中が清涼飲料とインスタント食品

 それから飲み物。炭酸飲料が急に増えた昭和55年・・・この時期こそ校内暴力大爆発。これも教育の問題だということにされますが、何故そんなにイライラ、カッカするのか? 彼らは炭酸飲料をがぶ飲みしていました。当時はジュースを飲まずにいられない人間が増え、高等学校では自動販売機をほとんど設置していました。今やインターハイを支えているのは清涼飲料の会社です。オリンピックもそうです。
 カップラーメンやインスタントラーメンを食べ続けて出た犠牲者の話もいっぱい聞いています。岩手で授業中に倒れた小学生の診断名は、くも膜下出血。家庭の食事は全部カップラーメンでした。本当に日本の食生活、まったくおかしくなっています。東京大学医学部の学生の話。高校時代からカップラーメンを食べ続け、6年生の時、難しい医学書の中に埋もれて死んでいたと言います。そのお母さんは「息子が学んだ医学は何だったのでしょう? 自分の命も守れない医学なんて」と話していました。
 病院では自動販売機のほか、カップラーメンも売っています。病室までジュースやカップラーメンを業者が売りに来るそうです。これはアメリカの医者が聞いたらびっくりするでしょう。ある県での話ですが医師会にも自動販売機。となりの歯科医師会館にはさすがにありませんでした。整形外科にはかなり置いていました。骨が折れることを期待しているのでしょうか。郵便局、警察にも。いったい日本はどうなることでしょう? 介護福祉士の専門学校にも清涼飲料とコーヒーとカップラーメン。栄養コースのある大学校に行った時も驚きました。玄関でカップラーメンを販売しているのです。
◆ 血糖値と食事
 血液中の糖の状態を表した血糖曲線というのがあります。正常な人の場合、ブドウ糖を摂った後、血糖値がいったん上がり、次に下がって平らになり正常値を保っていきます。糖尿病の人の場合は高くなり、下がらず尿で流されていきます。逆に低すぎるのは低血糖症。長時間検査してみて分かる低血糖症もあります。
 昔の日本人ならこんな症状を心配する要因はありませんでしたが、糖質の摂り方がまるっきり変わってしまい、この変化に医学は追いついていません。医学はこういう研究をしてもお金にならないので、食事の研究などしないのです。素晴らしい医者もいますが、医学の主流のところでは薬、薬です。
 低血糖と食事の関係というのは、最近まで医者の問で言われていませんでした。食原性のということが言われるようになったのは数年前のことです。精神医学では未だに全然取り上げられていません。菅原明子さんという保健学者の実験によると、同じカロリーの米とパンと砂糖を比べると、砂糖は急激に血糖値が上昇し急激に下がっています。砂糖を取りすぎると動揺がひどいということですね。医学の方ではこういうことを学んでいません。栄養学の方でも取り上げていません。
 こういう症例があります。元看護学生の例です。体重が減りすぎたからと毎日チョコレートを食べていましたが頭痛がひどい。チョコレートをやめたらぴたりと頭痛が治まりました。そこで血糖検査をすることになり6時間の経過を追ってみたところ、血糖が上がる時には「嬉しくなるくらい気持ちがよくなった」。下がり始めると、疲労感、眠くなる、足が冷たくなる、顔の筋肉がひきつる感じ、頭痛、不安、震え・・・など症状がとんどん出てきました。体温曲線は血糖曲線と同じです。低血糖の人は低体温傾向、低血圧傾向が伴います。
 この人の話をよく聞いてみると、医者に病気にされたようなものなのです。医師から「体重を減らしなさい。一月のあいだご飯を食べないように。食べるのは野菜サラダだけにしなさい」と言われ、看護学生として真面目に実行したところ、疲れて疲れて授業中も眠ってしまう。そこで再び相談したところ「砂糖をたっぷり入れてコーヒーを飲みなさい」。それを実行し、7〜8杯飲むようになったのですが、これでは低血糖実験ですね。体はがたがたになり、学校は辞めざるを得なくなりました。入院が10回、3年間。私に会ったのが10年目でした。
 この人はどんな診断を受けたかというと、20数種あります。胃、腸、肝臓、腎臓、それから高血圧、じんましん…生理も止まってしまいました。薬の合計が、ある時は33種類。主治医は心療内科です。心だ心だ・・・と言うのですが、実際は薬物です。安定している時で15〜16種類。使った薬の種類は全部で120種類でした。支払った医療費は10年間で約数千万円。家が2軒建つくらいの額です。
 私と出会って食事を全面的に変え、白砂糖類は全部除きました。するとすうっと薬から離れました。10年間、棒に振りましたが、37歳で結婚して赤ちゃんにも恵まれました。

◆ 心のケアも大事だが

 これと似たような話が心療内科にはいっぱいあります。そういうところの医者に話しに行ったこともありますが、全然耳を傾けません。「食事は関係ありません」と。心から体へということが頭にあるんですね。それは確かにあります。その代表は心身症です。
 でも、その反対も当然あり得るのです。体の中の生理学的な状態で心が影響を受ける、脳や神経が影響を受ける。でもこちらは抜きにしているんですよ。それで心理学的な研究ばかり。心のケア一辺倒。心も大事ですが、心の働きを左右する脳の状態のもとになる食事ということを頭に浮かべない。そして甘いもの食べ放題。学校もそうでしょう。
 精神病院の入院病棟の中にも自動販売機があり、清涼飲料が飲みたいだけ飲める。これが医療の実態です。ある良心的な、栄養療法を学び始めた医師がいて、院長に「自動販売機をやめませんか」と提案したところ「収入が減るから駄目だ」と言われたそうです。
 太りたくないということでご飯を減らし、朝二口、お昼抜きで夕方二口、一日合計四口という人もいましたが、冷えて冷えてたまらない、疲れる。白砂糖は警戒しているという人でしたが、ご飯を食べない。そのままいったらボケたと思いますが、ご飯を食べるようになって、たちまちよくなりました。
 一度に25本缶コーヒーを飲んだという若い男の子。家庭内暴力で親が精神科に連れていきましたが、薬を出すだけで食生活は何の問題にもされない。また別の医科大学の精神科にも行きましたが、そこも薬、薬。この家は、収益のためにと家の前に自動販売機を置いています。そこで息子が好き放題飲んでいる。日本の縮図です。
 受験戦争で缶コーヒーを飲み過ぎ、コーヒー中毒。精神科医に連れていくと入院させられ、2週間後に面会に行くと、見るもはっきりと前より悪化している。薬で表情がなくなり、親は愕然とした。別の病院に行くと24種類も処方され、先生に「ご自分のお子さんにだったら、こんな数の薬を出しますか?」と尋ねると、先生は黙ってしまった。「婦長さんはどうですか?」と聞いても答えない。医療を信用できなくなって、拝むところに行くようになった。先祖供養を勧められ、約300万円かかった。それでも当然よくならない。娘さんは病院を脱出しようとして窓から飛び降り、足を怪我したりしました。

◆ 不登校・アルツハイマー

 不登校の症状は、だいたいが低血糖症にぴったりです。朝起きられない、頭痛、吐き気、無気力、時にはカーッとなる。ひどくなると家庭内暴力です。何故暴力をふるうのか? 血糖値が下がると、それを上げるために副腎からアドレナリンというホルモンがたくさん出てきます。これは攻撃ホルモンです。これが怒り、敵意といった攻撃的感情を刺激し、目前の人に対して暴力をふるわせるのです。 
 熊本大学の小児科では、不登校児の血糖検査をやり、データをとって異常を発見しながらも、こういう結果を起こすのは学校のせいだ、学校ストレスだという解釈になっています。たしかにストレスも血糖を下げます。でも食事も大きいのです。その両方あるはずなのに、一方を無視しているのです。
 アルツハイマーの人は甘いものをいっぱい摂っています。でもそれについて、日本の現役の医科大学教授のある人は「アルツハイマーの人は低血糖だから、甘いものをいっぱい摂るのは当然です」と言っています。甘いものの摂りすぎによる低血糖のことは全然ご存知ないようです。砂糖メーカーに頼まれてビデオを作ったり、「砂糖は脳の最良の栄養素」と書いています。そういう人をバックに、砂糖業界は「あなたの脳にお砂糖は足りていますか?」と宣伝しています。
 砂糖の害を説いた鈴木雅子先生という栄養学者がNHKに出ましたら、NHKが大圧力を受けました。砂糖業界は砂糖の人気をよくしようと、昨年は横浜でシンポジウムもやった。それをバックアップしているのが朝日新聞社と農林水産省です。農林省には砂糖産業振興課というのがあります。私が農業新聞で砂糖を悪く書いたら、すぐに編集部にクレームがきました。そういう構造になっているのです。
 栄養学のある大先生も「砂糖が悪いという人がいるそうだけれど、そんなことはない。犯罪は社会現象だ、栄養現象ではない」と言い切りました。「炭酸飲料を摂ると食欲出るからいいですよ」という話の講演もありました。主催はもちろん企業です。
◆ 精神科医療に栄養の視点を!
 統合失調症の人の中にも低血糖症の人は20%います。でもそんなことは検討せず、すぐに薬、薬。レッサーに言わせると、精神病の薬は、神経を縛ってしまう。大きな強い症状は抑えたとしても、別の症状が出てくる。新しい、薬による精神病を作り出すのです。緊急な処置として使うのはいいですが、根本的には栄養療法が大事です。しかしながら医療関係者の意識は低い。ある出版社が、精神科主任教授にアンケート調査をしたところ、統合失調症の原因・治療について、栄養に関心を持っている人は日本に一人もいませんでした。もっぱら、いい薬物をという発想です。
 栄養療法を実行して良くなった!という手応えはたくさんあります。日本の精神科の医療で、こういうことを試して下さればいいのですが、と願っています。 
                            
 − 了 −


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