有機リン系農薬 最近までホストハーベスト農薬の主役・・・わかってきた有機リンの毒性・・・ |
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・・・2004年1月19日(月)朝日新聞記事より転載・・・
殺虫剤やプラスチックの難燃剤など、私たちの身の回りで幅広く使われている有機リン化合物(リン酸エステル類)が、従来いわれているよりも複雑で多様な神経障害を引き起こすおそれのあることがわかってきました。 どんな症状が表れ、何に注意すればいいのでしょうか。 有機リン中毒の研究で世界的に知られる石川哲・北里研究所病院臨床環境医学センター長に聞きました。 (経済部・辻陽明)
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―私たちが日常生活で有機リンに触れる機会はあるのですか 「有機リン系の殺虫剤がいろんな場所で使われている。 大型店舗や飲食店、学校、病院、電車などではゴキブリ退治や伝染病予防のために散布する。住宅のシロアリ駆除で床下にまき、ダニ用防虫シートをたたみの下に敷く。公園、ビルの庭などの樹木、趣味のガーデニング、もちろん田畑や果樹園の農作物の害虫駆除にも用いられる」 「殺虫剤の成分は散布後に揮発し、大人も子どもも気づかないうちに吸い込んでしまう」 ―人間への影響は 「最近の殺虫剤は人間がけいれんを起こすような急性 の中毒は弱められている。仮に急性中毒になっても、有機リンは体内で分解、排出されるから早く回復すると信じられていた。しかし実際は、後で多様な精神・神経障害が表れ、微量でも繰り返し吸い込めば徐々に症状が出てくる」 ―慢性中毒? 「患者によって出方は異なるが、まず倦怠感、頭痛、 吐き気、めまいなどの自律神経系、視力の低下など目の異常、その後、うつ的な症状、情緒不安定、思考力、記憶力の低下、睡眠リズムの障害など精神機能系の症状が出る。殺虫剤によっては花粉症、ぜんそく様の発作が悪化し、化学物質過敏症になる場合もある」 ―どういう仕組みでそうなるのですか 「簡単にいえば、有機リンは体内のさまざまな酵素の働きを阻害し、主に脳・神経系の機能を狂わせ、心と体のバイオリズムをおかしくする。酵素が繰り返し阻害されると、微量の有機リンにも反応し、症状が重くなる場合もある。発がん性など見えやすい毒性ではない点が特徴だ」 「酵素の阻害といえば、中毒の原因としてアセチルコリンエステラーゼだけが問題にされてきた。ところが最近の米欧の研究で、それ以外に、脳機能の調整に欠かせない脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)など数種類の酵素の阻害が実験で確認され、有機リンの神経毒性の仕組みがどんどん解明されてきた」
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〜規制が緩い日本 発育への影響も〜 揮発に注意、換気を |
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―規制は「米欧で進みつつある。米国では91年の湾岸戦争の帰還兵に有機リン中毒が多く、野営地にまいた殺虫剤などが疑われた。このため政府主導で有機リン中毒の研究が進む一方、米環境保護局が94年、私の神経中毒性に関する研究論文に注目し、有機リン系殺虫剤の規制の見直しに乗り出した」 「私は70年ごろ、長野県佐久市で増えていた眼病を調べ、有機リン系殺剤の空中散布が主な席因だという論文を書いた。目は脳の窓というぐらい各種の神経が集まる。 目以外の神経にも当然、障害を起こすと考えたが、日本では慢性毒性にほとんど注意が払われなかった。いまでも規制は緩いといわざるを得ない。使用量を増やしている中国などアジア各国の住民のことも心配だ」 ―家電や建材用などに使うプラスチックの可塑剤や難燃剤にも、一部用いられています。 「分子の基本構造は有機リン系殺虫剤に近い。揮発して酵素を阻害するのかどうか、慢性毒性の研究はまだ少ない。個々の物質について、脳への影響など長期間吸い込んだ場合の毒性を研究する必要がある」 ―どう対応すればいいのでしょう 「有機リン系殺虫剤をまいた場所には近づかない。家電などから揮発する恐れがあると思ったら換気する。中毒症状ではないかと思ったら、専門医に相談する。酵素の阻害は遺伝的に個体差が大きい。自分が何ともなくても、ほかの人に気を使うべきだろう。特に、子どもは精神・神経機能の発育に影響が出る可能性があり、注意しなければならない」
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有機リンは、体内の「化学工場」といえる様々な酵素の働きを阻害し、心と体の機能を調整する神経伝達物質を正常に代謝できなくする。図のように酵素が鍵穴とすれば、神経伝達物資は鍵にあたり、正常な状態だと鍵穴に入り分解・代謝される。有機リンは分子構造上、酵素の鍵穴に入り込み、ふさいだままになりやすい。その結果、脳内の神経伝達物質などが代謝されずに蓄積し、様々な神経障害を引き起こす。
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