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まだまだ続く放射能汚染
オルター通信1186号 記事
小若編集長インタビュー〈4月12日〉
(食品と暮らしの安全 2011.5 No.265より転載)

史上最悪の原発事故となった福島原発震災。
しかも、いまだ終息への道筋はみえません。
これからどうなるのか、槌田敦先生に伺いました。

◆今の状態が続くことは「幸運」
――福島第一原発では、相変わらず薄氷を踏むような作業が続いていて、先行きが見えません。
槌田 危なっかしいのですが、爆発せずに今みたいな状態が続くことは、むしろ幸運かもしれません。これから先、うまくいっても、じわじわ放射能を漏らし続けます。
――まだ、最悪の事態もありうると?
槌田 かなり高い確率でありえます。一つは、原子炉の底が破断して燃料が落ちることです。
――メルトダウンとは違うのですか?
槌田 メルトダウンは核燃料が2300℃以上の高温になって燃料が炉の底を溶かしながら落ちていくことをいいます。もう、それほど高温にはなっていません。
 しかし、圧力容器の底にウラン燃料が瓦礫のように積みあがって、その上に、海水を注水したときにできた塩が板のように固まり、冷やせなくなっているようです。それで、格納容器を水で満たし、原子炉を外からも冷やすのです。
 すでに圧力容器の耐久力が落ちているので、核燃料が1000℃ほどに上がると、亀裂が入って割れて底が抜け、放水で溜まっている水と出合い、水蒸気爆発を起こします。
――「海水を入れてはいけない」と槌田先生が事故直後に保安院にファックスされましたが、無視し、アメリカから言われて、3月25日に海水を真水に切り替えました。でも手遅れに近いですね。水蒸気爆発となると、炉内の核燃料が飛び散ります。
槌田 チェルノブイリでも、炉内の放射能の全部が出たわけではなく、大部分は閉じ込めることができました。しかし、福島で閉じ込めることは無理でしょう。しかも、1つでも爆発すれば近づけなくなりますから、次々に爆発することになります。今は制御できている5、6号機もどうなるかわかりません。
 また、海に捨てた「低レベルの放射性汚染水」6万トン。その水の存在を知って、びっくりしました。普通に使える貴重な真水をなぜ捨てるのでしょう。ホースをつなげば、原子炉を冷やす水とすることもできたはずです。
 それを捨てて、海を汚染しました。まったく、何と言うことをしているのでしょうか。

◆地震で壊れた原子炉
槌田 再臨界になる危険からも脱していません。いくつかの条件が重なれば、再び核分裂反応が始まり、生きた原子炉が出現します。そうなれば出てくる中性子線で人は近づけないので、やはり水蒸気爆発につながります
――もし臨界や爆発が起きたら、30km以遠の人も逃げたほうがいいですね?
槌田 そのとき放出される「死の灰」はチェルノブイリの数倍になるでしょう。
 そんな事態になれば、ニュース速報が出るでしょうから、福島、郡山はもちろん逃げたほうがいいですね。風向きによりますが、東京も今度は危険になるかもしれません。
 南風なら仙台が直撃されます。女川原発のモニターでも放射能数値が上がりましたね。そこまで飛んでいるのですから。
――爆発しない道は、今からでも可能ですか?
槌田 制御できる道はありますが、情報が少なすぎて、東電のやっていることが正しい方向かどうか判断できません。
 このような事故の実態は、5年ぐらい経たないと本当のことはわからないものですが、わかっている本当のことも隠しているから、もっとわからないのです。
 原発の電源消失は津波が来てからで、原子炉が止まるところまで正常だったと言っています。しかし、津波が来るまでの記録は一切公表されていません。しかも翌日になると水素爆発、炉心溶融だと言う。炉心溶融になったのなら、その証拠が必要なのに、確かめず、みんなそれを信じてしまったのです。
――炉心溶融と言うのは重大事故だから、本当は言いたくないはずです。
槌田 あの早い段階で言ったのは、最初に何か、確証があったのではないでしょうか、最初に正常に止まったのが、実は、ウソじゃなかったかと考えました。
――4月8日、NHKが資料を入手したと報道。1号機で、地震当日の夜に原子炉の水が核燃料が露出する直前まで減っていたと明らかにしました。
槌田 ということは、地震で壊れるはずのない原子炉から水が漏れていたのです。

◆東電がいう「想定外」の意味
槌田 今回の地震、津波を「想定外」と東電は言いますが、彼らの言うのは「想定値外」のこと。それを「想定外」で神のみぞ知るとして逃げようとしているのです。
 費用がかかりすぎるから、この程度でよしとするのが「想定値」で、原発の安全性は科学技術で対応したものではなく、経済で決められていたのです。
 千年に1回しか起こらないものを、原発の寿命の60年間で議論すること自体ナンセンスであると、彼らは言っていました。
 しかも、非常電源13機がすべて同じ地下室に設置されていて、今回の津波で全滅しました。もっと高いところに数台置くだけで、今回の危機は起きていなかったはずです。他の原発ではそのようにしています。
 これでは、危機管理意識がまるっきり欠如していたとしか言いようがありません。
――電気事業連は「万全の地震対策を行っています」と言っていたのですから、あきれるばかりです。
槌田 震災以降ムチャクチャな対応をしてきた東電ですが、今は、米原子力規制委員会(NRC)のやり方を仕方なしでも取り入れたので、だんだんましになってきています。チッソ封入もNRCの助言です。また、フランスの助言もありますしね。安全委員会、保安院、東電は、外国の言うことは聞くのです。

◆今の葉物野菜に注意
――最悪の事態に至らなくても、放射能汚染は生活を脅かしています。
槌田 核分裂により生成される放射性核種は多数ありますが、その大部分は半減期が短いか、あるいは生成量が少ないため、人間の被ばくに関与する核種は限られます。
 今まで出てきた放射性物質で一番多いのがヨウ素(I-131)で、半減期は8日。1ヵ月で1/10以下になります。2ヵ月で1/100以下と、間もなく消えるので、これからは、大騒ぎすることはありません。
――まだ原発から出ているのではありませんか?
槌田 再臨界になれば別ですが、ヨウ素131が危険なのは事故の直後で、今は原子炉の中でも減っています。
 ヨウ素と同量くらい出てきたのがセリウム(Ce-144)。少し少ないセシウム(Cs-134、Cs-137)です。
 ですから今、放射能を浴びる可能性が最も高いのはセリウム144。半減期9ヵ月、8年ぐらいでなくなります。セシウム134・137の半減期は2年と30年。この3つが主に土壌を汚染しています。
 今までは、運よく風が海に向かっていたので、多くは海に抜け、陸の被害は少ないほうです。局地的に汚染された土地があるのは、雨がときどき降ったためでしょう。
――福島の農家を応援する販売が行われています。
槌田 放射能がまだ飛んでいる時期だから、今は汚染地の葉物は食べてはいけない時期です。放射能が放出されなくなれば、後は土壌汚染が主なので、収穫したら、検査してから食べることになります。

◆検査して食べていく時代に
――4月11日、政府は、飯館など累積放射線が高い地域に、ようやく避難命令を出しましたが、家畜を置いていけない人たちもいます。
 米の作付け制限も発表され、消費者はそれでも農作物に不安を感じています。
槌田 避難する地域では家畜を放し飼いにすればいいのです。殺すなんてもったいない。生き抜いてもらって、後で毒抜きを考えます。
 農耕制限には反対です。事故が起きる前と起きてからでは、考え方が違います。今は農耕制限しているときではありません。
 放射能がどれほど作物に移行するかなどの実験と考えるのがいいでしょう。栽培し、収穫したら、検査してから食べる。汚染していたら対策をします。水田は、水で洗って放射能を抜きます。
――汚染していたら200年ほど保管が必要ですが。
槌田 米とか芋、麦なら焼酎にすればいい。蒸留する程度の温度ではセシウムは出てきません。
 あるいは菜種畑、ひまわり畑にする、それを蒸留して純度の高い食用油を作ればいいのです。カリウム肥料は十分入れて下さい。そうしないとセシウムを吸収してしまうから。収穫したら、田んぼごとに検査すればいいのです。
――消費者はそのような食品を買うでしょうか。
槌田 これからは、ガイガーカウンターを使って、一定基準以下なら汚染した物も食べる時代になったということです。
 その検査ではゴマカシがあるだろうから信頼できないというのが、国民の気持ちでしょうが、ポイントは、量が少ないと検出されないことです。倉庫に保管する量なら検出感度が上がります。基準以上が出なければ、あとはサンプリングテストでいいのです。
 ダイオキシンなら、検査が大変ですが、放射能の場合は、ガイガーカウンターで簡単にチェックできます。汚染がひどいものは、東電や国に買い上げてもらえばいい。
 魚も同じで、漁をしてから測り、ダメなら止める。個体によって汚染が違うから、その後、何匹かを検査して、大丈夫なら食べる。東電が事故を起こしたので、そうやって食べなければいけない時代になってしまいました。


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