通信販売の法規(特定商取引に関する法)に基づく表示

摂ってはいけない!トランス脂肪酸 今すぐ「表示」と「規制」を
オルター通信994号記事
      消費者リポート 2007年8月7日 第1375号より転載


 朝食はマーガリンを塗った食パンに市販のコーヒー用クリームを入れたコーヒー、忙しい昼時にはファストフード店でフレンチフライ付きのお得なハンバーガーセット、そして小腹がすいた3時にドーナツ――こんな人、周りにいませんか。

ニューヨーク市内の飲食店は実質使用禁止に

 栄養のバランスという点からこのような食生活に問題があることは疑う余地もありませんが、今回取り上げるのは、マーガリンやコーヒークリーム、フレンチフライ、ドーナツに含まれていることの多いトランス脂肪酸。1302号でも紹介しましたが、摂りすぎると心筋梗塞や動脈硬化などの発症リスクが増大するといわれており、欧米では2004年あたりから使用規制を導入する国が相次いでいます。
 なかでも最近注目されているのは、アメリカ・ニューヨーク市の動き。07年7月1日から市内の全飲食店を対象に、調理油などに含まれるトランス脂肪酸量を一食あたり0.5%未満に制限することを義務付けました。実質的な使用禁止措置ですが、これに違反した場合には罰金が科せられるといい、行政の強い意志が見て取れます。
 翻って日本の現状はというと、1302号で報告した時点からまったく変わっていません。一部のファストフード店やコンビニエンスストアが独自にトランス脂肪酸低減の取り組みを始めましたが、政府は依然として「日本人の平均摂取量は安全圏内」と主張。何ら対策を講じていません。

少なければ少ないほど心筋梗塞の危険性低下

 トランス脂肪酸の危険性は誰もが認めるところです。食の安全・監視市民委員会が07年6月20日に開催した「知っていますか?トランス脂肪酸」の学習会で、国立健康・栄養研究所の江崎治さんはアメリカで行なわれた調査を紹介、トランス脂肪酸を多く摂取する人ほど心筋梗塞にかかる割合は高いことが証明されていると述べました。この調査は、約8万人を対象に1980年から2年ごとに20年かけて行なわれ、調査項目も食事摂取状況だけでなく、喫煙や運動量、本人の病歴、家族の心筋梗塞歴など詳細にわたっています。
 ところで企業の中には、トランス脂肪酸が反芻動物(牛やヤギ、羊など)の乳や肉の脂質にも含まれていることをあげ、トランス脂肪酸の含有率を表示するならそれも考慮する必要があるなど、あたかも表示は難しいと主張する向きもあります。しかし、心臓疾患の危険性で問題となっているのは植物油などを加工する際に水素添加することで生成されるトランス脂肪酸です。
 江崎さんは、「工場で作られるトランス脂肪酸は少なければ少ないほど良い」と言います。また、トランス脂肪酸を減らすことにより飽和脂肪酸が増えるという研究者の意見に対しては、「心筋梗塞の危険度はトランス脂肪酸に比べて飽和脂肪酸の方が少ない」と反論しています。

安全圏はあくまで平均 欧米並みの高い摂取も

 欧米諸国を中心に使用規制が厳しくなっているトランス脂肪酸が、なぜ日本ではそれほど問題視されないのでしょうか。根本的な原因は食品安全委員会にあります。
 食品安全委員会は、03年開催のWHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)の合同専門家会議で「トランス脂肪酸の1日当たりの摂取量を総エネルギー摂取量の1%未満にすべき」という勧告が出された後、「諸外国と比較して日本人のトランス脂肪酸の摂取量が少ない食生活からみて、トランス脂肪酸の摂取による健康への影響は小さいと考えられる」という見解を述べています。
 しかし、この時点で日本におけるトランス脂肪酸の食品中の含有量や摂取量の定量的な調査はほとんどなされていませんでした。そのため06年度に調査を行ない、07年6月に結果を発表しましたが、その内容は「日本人の平均摂取量は1日当たり0.7〜1.3gで、総エネルギー摂取量の0.3〜0.6%と、(WHO勧告の)1%未満」で規制の必要はないというものでした。
 これに対し、江崎さんは「アメリカ並みに摂取している人はいるはず」と疑問を呈します。実際、一日に何度もファストフード店を利用したり、菓子パンやドーナツを複数個食べる人は若者を中心にいるでしょう。老若男女、さまざまな食生活を送っている人の平均値が安全圏内だからといって、規制の必要はないという食品安全委員会の結論は、あまりにも乱暴です。

解決法は簡単明瞭 工場で使用を減らすだけ

 今回の調査では、同じ食品でもトランス脂肪酸の含有量には大きな差があることが、あらためて明らかになりました(表参照)。たとえばマーガリンの場合、lOOgあたりの含有量が最小の商品では0.36gだったのに対し、最大の商品では13.5g。どの商品を選ぶかで健康への影響度が異なるわけです。
 この結果はまた、食品中のトランス脂肪酸含有量を減らすのは難しくはないことも示しています。油への水素添加によってトランス脂肪酸が生成されるということは、江崎さんの言葉を借りれば「工場で減らせばよい」わけです。
 世界的な流れを受けてトランス脂肪酸低減に乗り出した企業もあります。しかし、あくまでも自主的な取り組みなので、商品間の含有量のばらつきは依然として残ったままです。企業としては、コスト面で有利な水素添加した食用油を使いたいというのが本音でしょう。とすれば、企業の都合によって私たちの健康がないがしろにされていると言え、強い憤りを覚えます。

行政主導の規制必要 表示も早急に実現を

 今回の調査報告の中で食品安全委員会は、「脂肪の多い菓子類や食品の食べ過ぎなど偏った食事をしている場合では平均値を大きく上回る摂取量となる可能性はある」と自ら認めています。それにもかかわらず、今後の取り組みとして示しているのは「摂取量等における健康への影響に関する国内外の新たな知見を蓄積していく」という、極めて消極的な姿勢です。
 冒頭で例に挙げたような食生活は確かに問題ですが、食品にトランス脂肪酸含有量が表示されていれば、それを避けるという選択肢も生まれてきます。
 食の安全・監視市民委員会がファストフード店や加工油脂メーカーなどを対象に07年1月に行なったアンケート調査で、表示などの取り組みに消極的な理由として「行政による指導がない」ことをあげる企業が少なからずありました。裏を返せば、行政が動けば事態はすぐにでも好転するということです。
 食品安全委員会は、消費者の健康の保護が最も重要であるという基本的認識の下に設立された機関です。であれば、今すぐすべきことは、加工食品中のトランス脂肪酸含有量の表示義務化と含有量の規制でしょう。  

(纐纈美千世)


*1ビスケット類には、ビスケット、クッキー、クラッカー、パイ、半生ケーキが含まれる。
*2ケーキ・ペストリー類にほ、シュークリーム、スポンジケーキ、ドーナツが含まれる。
*3マヨネーズには、サラダクリーミードレッシング及びマヨネーズタイプが含まれる。
*4クリーム類には、クリーム、乳等を主原料とする食品、コーヒー用液状クリーミング、クリーミンクパウダー、植物油脂クリーミング食品が含まれる。
*5抽出油中0.05g/100g(定量下限)未満であった。
※内閣府食品安全委員会平成18年度食品安全確保総合調査食品に含まれるトランス脂肪酸の評価基礎資料調査報告書(2007年)より抜粋
オルターでは創業当初より、トランス脂肪酸を追放してきています。 
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