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かめびしのJAS辞退は当然
オルター通信1030号 記事
かめびしのJAS辞退は当然
代表 西川 栄郎

 国によるJAS基準は食の安全の立場からみて、不当、不適切なものが山積みです。その理由は、大手メーカー主導のため、工業的製法を正当化するために作られており、真に食べものはいかにあるべきかという立場には立っていないからです。
 今回のかめびしさんの見解をオルターとして全面的に支持します。



JAS辞退に関するお知らせ並びにお願い 
株式会社 かめびし

 過日JASの弊社工場調査時において、弊社の商品のうち「にがり入りこいくちしょうゆ」「にがり入りうすくちしょうゆ」「三年醸造しょうゆ」「減塩しょうゆ」について、その製法がJASの格付け基準に合致しないため違反であるとする見解が示されました。
 主な理由は、@「にがり」は添加物であり、それを入れて製造するとJAS規格のこいくち、あるいはうすくちとは認められない。A減塩しょうゆとはこいくちの生揚げのみを使用するものを指し、再仕込み製法での減塩はJAS規格では認められないなどです。
 これらの製法は、ご存知のとおり弊社が江戸時代より長年に亘り醤油造りを行う中で編み出してきたもので、いずれの点もこれまで違反などというご指摘はありませんでしたので、弊社もいささか困惑しております。
 現在農林水産省にはこれらJASの格付基準こそおかしいのではないか、大手中心の基準ではなく、もっと本来のものづくりの視点に立ち返って基準を見直していただきたい旨の異議申し立てをし、今回の見解を改めていただくように申し入れておりますが、結論はまだ出ておりません。
 しかし、このようなJAS規格のもとでは弊社のしょうゆづくりの姿勢がきちんと評価されているとは言いがたく、また本来のしょうゆのあり方とあまりにずれているため、社内で検討を重ねた結果、今回の結論が出る前に自らJASの格付を辞退せざるを得ないとの考えに達しました。
 つきましては、今後の商品の製造販売におきましてはJASマークを外したラベルを添付して行う所存でございますところ、貴社には大変お手数をお掛け致しますが、弊社の製造を続行するには止むを得ない事情であること、何卒諸般ご賢察の上ご理解賜りますようお願い申しあげます。
 なお、新しいラベルにつきましてはデザイン、バーコードなどの変更はございませんが、JASマークの削除以外にも一括表示内の「にがり」を「粗製海水塩化マグネシウム」とするなど、一部表現も改めておりますので併せてご確認くださいませ。
 以上取り急ぎお知らせならびにお願い申し上げます。
 今後とも何卒変わらぬご愛顧を賜りますよう心よりお願いいたします。


1.減塩しょうゆについて
 
 弊社の減塩醤油の製法は約30年前に弊社社長(岡田國義)が、当時の香川県食品試験場(現香川県工業技術センター)の故竹田先生にご相談の上、編み出した独自のものです。
 当時(今でもそうですが)流通していた一般の減塩しょうゆは、こいくち生揚げを膜ろ過を通して減塩したものでした。しかしその製法ではしょうゆ本来の旨みや風味とは程遠く、また塩分のバランスも悪いため俗にいう、おいしくない減塩しょうゆしか作れないのです。
 また一方で、弊社のように醸造期間の長い生揚げを使用する場合は、膜ろ過の際大事な旨み成分まで取り除かれてしまうというデメリットもあり、そのため最初から塩分を下げ、水分量を減らした状態で再仕込みにし(塩分15%程度のもろみ)、窒素が十分に出たところで減塩しょうゆの規格に合致するように水を加え戻すという方法を編み出したのです。
 この製法は開発当時から何ら変わっておりませんし、この商品は厚生労働省許可の特別用途食品にもなっております。
 またJAS法違反とのご指摘を受けたことは一度もございません。


2.にがり入りこいくちしょうゆ、にがり入りうすくちしょうゆ、三年醸造しょうゆについて
 
 弊社で製品ににがりを加用し始めたのは、昭和40年代に遡ります。
 江戸時代においてはしょうゆは海水または海水の組成に近いにがり分をたっぷりと含んだ塩で作るものでした。ところが近代に近づくにつれ塩の専売化や規制により、本来の塩がなかなか手に入らなくなったことを受けて、当時においてはよい塩の代表格であった再結晶塩を使うことでにがりの効用をそのまま残すことにしたのです。しかし、問題になったのが再結晶塩の価格と供給量でした。ご存知のとおりしょうゆ作りにはかなりの量の塩を使用しますので再結晶塩のような特殊塩では供給量も不安定になる恐れがあり、またある程度安価な塩でなければ実際の販売には支障を来すことから、やはり再結晶塩そのものを使うことは難しい面があったのです。そこで苦肉の策として編み出したのが、再結晶塩をつくる工程の一部を弊社内で代行する方法、つまり現在の輸入天日干し塩ににがりを添加する方法でした。 こうすれば塩そのものの安定した供給が期待できますし、何よりしょうゆには塩を溶かして使うのですから、再結晶して乾燥させる手間を省ける分、再結晶塩を使うよりもずっと安価で同じ結果が得られるわけです。
 余談になりますが、しょうゆの味の構成要素においてこのにがりの果たす役割は相当大きなものです。この苦味があるからこそ味わいの奥深さができ、単に塩辛いだけでない旨みを引き立てることができます。
 従いまして、弊社におけるにがりの使用、ひいては海水そのものの使用は250年以上にわたり続けられてきたことです。現在は仕込み用塩水に溶かして使用しております。
 この途中においてJAS法が制定され、また本年4月からはにがりの表示について「粗製海水塩化マグネシウム」という表現を用いるようにとの規制ができたわけですが、弊社の考えるにがりというものは本来の塩に含まれている不可欠成分であり、添加物としてのにがりではありません。確かに現在使用しているにがりについては「粗製海水塩化マグネシウム」ではありますが、弊社としては再結晶塩そのものの表示方法についても異論のあるところです。
 また減塩しょうゆと同様、これについても製造方法自体は開発当初より変わっておらず、これまでの工場調査時には何らご指摘もなかったことが、今になってこれらが格付違反であるというのはいささか納得しがたく、にがりの使用は本来のしょうゆづくりそのものを維持する上では欠かせない要素であることを是非ともご理解いただければと思っております。
 また三年醸造しょうゆについても、これらの生揚げを使用して再仕込み製法にて麹を仕込み、3年以上の年月を経てもろみを熟成させる製法は昔も今も変わっておりません。3年醸造といいながら、5年さらには7年もの年月の間熟成させることもあるのです。
 最後に、現在のJASの格付け基準が、どのような経緯を経ていかなる見識に基づいてできたものかはよくわかりませんが、少なくとも、私どものような伝統製法を必死で守っているメーカーにとっては、最近のJASの傾向はわれわれの存在意義が少しずつ否定されているかのような気がしてなりません。
 その昔、全国各地に個性的な醤油蔵が多く存在し、切磋琢磨して味を競っていたことを本来の食文化のあるべき原点とお考えであるならば、このような大手中心の画一的な格付基準だけでなく、これからの醤油づくりがより多様性に富み、しょうゆ業界自体が発展する可能性も含めた基準も是非ご考案賜りたく、心よりお願い申し上げる次第です。



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