通信販売の法規(特定商取引に関する法)に基づく表示

電磁波による健康被害をWHOがはじめて認定
オルター通信1003号記事
電磁波による健康被害をWHOがはじめて認定
ふぇみん 2837号(2007年10月5日)より転載

ガウスネットワーク 懸樋哲夫



電磁波にも予防原則を!
 WHO(世界保健機関)は長く待たれていた電磁波による健康被害に関する報告書を発表した。その意義と限界、そして経済産業省の作業部会(電力設備電磁界対策ワ一キンググループ)の問題点などを、ガウスネットワーク代表の懸樋哲夫さんが報告する。

 鳥取市で小学校に隣接して建設中の変電所をめぐり、児童と保護者が起こしていた建設工事差し止めを求めた仮処分申請が6月28日に却下された。鳥取地裁は「不安感に合理的な理由があるとはいえない」などと判決理由を述べている。中国電力は本体工事に着手した。この変電所の建設についてはPTAが市内をデモ行進するなど強い反対があったが、裁判所は法の名で住民に背を向けたのである。
 このように変電所や送電線、配電線などの電力設備から発生する電磁場について日本では現在規制値が定められていない。スウェーデンやアメリカなどで3〜4ミリガウス(電磁波の強さを示す単位)という数値で小児白血病の発症率が2〜3倍になるとの研究結果が何度も報告され、日本でも文部科学省の予算で行われた国立環境研究所の疫学調査で同様の結果が出ている。送電線や電所の近くや、家電製品も近づけば数十ミリガウスの電磁場はあたりまえに計測される数値なのだ。フランスにある国際がん研究機関(IARC)はこの低周波の電磁場を「発がんの可能性あり」と2002年に認定した。


WHOが電磁波で「環境保健基準」を公表

 WHOの「電磁波プロジェクト」は、電力設備の電磁場の健康影響に関する調査の最終的な結論として「超低周波電磁場・環境保健基準報告No.238」を07年6月18日に公表した。
 その内容で特に注目されることは、電磁場が微弱なレベルでの小児白血病のリスクを初めて認めたことだ。「3〜4ミリガウスの小児白血病リスクは、多数の疫学調査を総合して解析して得られた結果なので偶然ではないだろう」としている。一方、乳がんなど他のがんについては証拠が不十分で、実験動物研究などでも、超低周波磁場の被曝だけでがんを起こすという証拠は不十分であるということも記されている。
 そしてもう一つ大きな点は「予防措置」を推奨していること。「健康、社会、経済的利益が侵されないという条件の下で、曝露を減らすための極めて低コストの予防的措置を電力が講じることは合理的であり、正当化される」と記されている。これが全体の結論だと見られる。
 さらに、「たとえば、主要な超低周波電磁波の発生源の位置を決める際、産業界と地方行政と市民との間でより良い協議を図るなど地方当局は、超低周波電磁波を発生する施設の建設計画の立て方を改善すべきである」としている。これを受け入れるなら鳥取市の事例に見られるような、日本で常態だった住民無視の強行工事は今後許されないことを表している。
 また、東京電力などが「電磁界の安全説明パンフ」などで「WHOの基準5万ミリガウス」などとありもしない数値を手前勝手に基準と称してきたようなことは、もはやできないだろう。


WHO報告の限界と経済産業省の作業部会の現実

 WHOは今回の報告書を出すまでに11年を費やし、そのことでこれまでは電力会社の傲慢な主張がまかり通ってきた。しかし、今回の最終報告で少なくともそのような冗談のような数値は完全に言えなくなった。
 一方このWHOの勧告は問題もある。報告では3〜4ミリガウスでのリスクを認めながら、そのレベルでの規制値の認定を勧告しようとせず、予防原則についても費用をかけない程度で、との断りがついているからだ。このように、WHOという組織は各国政府や電力産業の思惑を無視しない国際機関であるという限界もある。
 日本でも6月から経済産業省が部会を発足させ、電力施設に限定した規制値の制定の検討を始め、この10月には結論を出すとしている。
 WHOの煮え切らない内容を手前勝手に解釈して、これまで電力会社が準用してきた国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドライン、1000ミリガウスをそのまま適用するなどという結論を出されてしまうことを許したくない。送電線や変電所の隣接区域に住む住民の立場からすれば、そのような「基準」なら、ないほうがましだからだ。部会を2回傍聴したが、消費者代表の委員が質問して「専門家」から回答するという構図で、3〜4ミリガウスの疫学調査で明らかになったリスクを否定する論調が支配的であり、強い危惧を覚えた。
 私たちは基準値作りの前提として予防原則的措置が行政理念に盛り込まれることを求めたい。当面、電力設備の新規建設の場合は、4ミリガウス以下に法規制することを要求する活動が必要だ。8月には全国の市民グループが「電磁波から健康を守る100万人署名連絡会議」(仮称)を結成した。全国署名への協力をお願いしたい。


   連絡先 ガウスネットワーク
        TEL 042(565)7478 
        eメール tez7@nifty.com




電磁波

 電波、]線、光などとともに、携帯電話で使用されるマイクロ波など電気と磁気が空間を伝わる波。波長により超低周波と高周波がある


電磁界(=電磁場)

 電流の周囲に発生する電気と磁気の作用する空間。送電線、変電所などの電力設備や家電製品から発生する。磁場はミリガウス(mG)あるいはマイクロテスラ(μT)で強度を表す。経産省が規制値を検討している送電線や変電所などの電力設備以外にも、家電製品、医療機器、交通機関などから超低周波(50または60ヘルツの周波数の電磁波)が発生する


高周波

 携帯電話や携帯電話中継基地局(アンテナ)、電子レンジなどで使用されている電磁波。WHOの今回の報告は、超低周波に関するもの。高周波の報告は来年に予定されている




戻る