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民衆貿易(オルタートレード)の始まり マスコバド糖
カタログ“2001年5月3週”
 マスコバド糖(フィリピンの伝統的な製法の黒砂糖)の日本への輸入は、貧困と飢えに苦しむネグロスの子供たちを救おうと始めました。
 フィリピンの中部にあるネグロス島は、同国最大の砂糖生産地で、肥沃な土地のほとんどが砂糖きびプランテーションに占領されていました。1980年代の始め、人工甘味料(とくに、トウモロコシから作るコーンシロップ)の登場などで、砂糖きびの国際価格が暴落し、島民のほとんどが砂糖産業に依存して生活していたため、職を失いました。しかも砂糖作り以外の農作物作りの経験、種、道具を持たなかったため、そのまま飢えに苦しむ事態となりました。人口約350万人の30%が飢餓状態となり、栄養失調や病気で年間1000人以上の子どもが死にました。
1986年10月14日 毎日新聞に掲載された写真。左から当時の西川栄郎(現オルター代表)、CDRCアラン・シー事務局長、堀田正彦日本ネグロスキャンペーン事務局長(現ATJ代表)
 そのため、現地のキリスト教関係者、医師らで構成するCDRC(市民災害復旧センター)、日本の宗教関係者、学者らが呼びかけ人となって組織した日本ネグロス・キャンペーン委員会が、救援活動に乗り出しました。一方、市民運動の洋上サミット「ばななぼうと」を主催した現オルター代表の西川栄郎は、日本ネグロス・キャンペーン委員会堀田正彦事務局長に出会い、カンパに頼る救援だけではどうしても取組みが弱い、現地の生産物を民衆自らの力で貿易し、そこから恒常的に救援資金を生み出そうとオルタートレード(民衆貿易)を提案しました。そして日本ネグロス・キャンペーン委員会の案内で、ネグロス現地を訪問し、島の唯一の基幹作物で、当時それしか生産品らしいものがなかった砂糖きびを、伝統的な製法のマスコバド糖として、1987年より民衆と民衆の直接貿易を開始しました。飢えで苦しむネグロス島民と、食品公害で苦しむ日本の消費者が相互に助け合う民衆貿易が始まったのです。この活動は、その後九州のグリーンコープ連合の協力を得て設立されたオルタートレードジャパン(ATJ)に受継がれ、マスコバド糖、バランゴンバナナ、エコシュリンプなどへ発展していったのでした。
 現地ではこれらの活動で得た資金で農業研修センター建設など、自立へ向けたプロジェクトを次々に立上げ、さらに作物の種子、農具、カラバオ(水牛)など農業を始めていくためのインフラに利用し、農民や漁民の経済的自立に役立ったのです。

ネグロスのオルター・トレード社(ATC)のマスコバド糖
  ネグロスでは、砂糖きびは粗放農業で作られており、もともと高価な農薬や化学肥料には頼らないで作られてきました。輸入を開始した当時細々と残っていたネグロスでの砂糖の伝統的な製法は、この砂糖きびを水牛が引く搾汁機で搾り、珊瑚礁のサンゴ(CaCo3)を加えて煮て作るというものでした。
  ネグロスの元砂糖労働者たちは、徐々に進む農地改革で手にした砂糖きびの有機栽培化を進めています。それがマスコバド糖の原料になっています。
  ネグロスのオルタートレード社(ATC)は1995年よりBOCP(有機砂糖きび栽培転換)プログラムを5ヶ所の地域で開始し、その生産物をマスコバド糖の原料としてきました。ATCは、BOCPプログラムを通して、有機農業の普及を目指しています。必要に応じてATCは資金や技術協力を行い、収穫された砂糖きびはマスコバド糖用に買い上げています。
  農業プログラムの中身は、単に有機肥料を使用することだけではなく、地域の自立をめざして、さまざまな農法を組合わせた複合的なものです。例えば、薬草などを利用して作られた害虫駆除剤や除草剤の利用、病気に強い品種の採用、適切な追肥、他の作物との混植といった総合的な農業管理にも目が向けられるようになってきました。
 現在、BOCP実施地域は8ヶ所に増えています。土地条件によっては、バランゴンバナナの有機栽培と一緒に取組んでいる地域もあります。日本への出荷を通して、こうした持続・循環型の農業が作られ、広まっていくことが、農民たちの自立にもつながっていくのです。
 収穫された砂糖きびは、手作業で枯れ葉やゴミが取り除かれます。昔は水牛で搾汁していましたが、現在では砂糖きびは、電動式の搾汁機で搾っています。また、煮るときにサンゴではなく石灰(CaCo3)を使っています。搾った砂糖きびジュースは大きな釜で煮詰めます。その間に浮いた不純物や沈澱物をていねいに取り除きます。第1回目の輸入の時にあったようなサンゴの異物は、フィルターで濾過をしていますので、今はすっかり安心になりました。自然に水分がとんでシロップ状になったころ、乾燥台に移します。シャベルを使って人力でサッサッサとかき混ぜて、粉末状態に自然乾燥させます。これが風味を逃さないコツなのです。マスコバド糖は、糖蜜分離も精製もしていませんので、砂糖きびに本来含まれている豊かなミネラルをはじめ、栄養素もそのまま含まれています。マスコバド糖は本来のネグロスの砂糖作りを人々の手に取り戻すと同時に、食べる人にも安全で美味しい本物の砂糖を提供します。そして、ネグロス民衆の農業作りの支援となっています。
  マスコバド糖のコクのある味は、煮物などの料理を引き立ててくれます。すき焼き、豚肉と野菜のコトコト煮にもどうぞ。コーヒーや紅茶にはもちろん、お菓子作りには独特の香りが美味しさを添えてくれます。とくにアイスコーヒー用におすすめです。

虫歯になる今の黒砂糖
 本来はカルシウムが豊富な黒砂糖を食べても虫歯になることはなかったのです。しかし今の黒砂糖は虫歯になるのが珍しくありません。なぜなら外国から安く入る粗糖を精製した安い白砂糖で増量し、さらにカラメル着色して黒くみせているからです。この白砂糖増量以外にも黒砂糖にはいろいろと問題があります。古くなった黒砂糖を新物に戻して炊く、炊き直しもあります。また真黒になっている黒砂糖は、化学肥料を多投して作ったキビ(糖度が低く、亜硫酸塩などのあくが多い)の汁は炊き上げるのに時間が長くかかるため、カラメル化して黒くなっているのです。良質の黒砂糖は真黒でなく「淡い黄緑色」か「淡い茶褐色」になるはずなのです。


  ―文責 西川栄郎―



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