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国立感染症研究所が発表した 『手軽な新型肺炎SARS対策に要注意』
通信813号資料記事
 筆者: 井 出 裕 之 氏
 〜日本市民ネットワーク設立委員会〜設立発起人代表
 
◆台所用合成洗剤がSARSに有効−国立感染症研究所◆
 国立感染症研究所は、2003年11月28日付で、同研究所のホームページ上(注1)において、台所用合成洗剤の主成分として使用されているポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(AES注2)および直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)が、新型肺(SARS)コロナウイルスの感染力を消失(失活)させるのに有効である旨を発表しました。これに伴い、テレビや新聞などのメディアでも相次いで紹介され、合成洗剤メーカーの株価も急騰するなど、きわめて大きな社会的影響をもたらしています。
 同研究所は、「合成洗剤として0.5%以上の温度の高めの水溶液で共用のものを2度拭きすると衛生上意義があるうえ、(エタノールのような)引火の危険もなく、家庭などに身近にあるものでできる新しい消毒法である」として推奨しています。


◆ウイルス失活と合成洗剤の毒性との奇妙な関係?◆              
 ウイルスとは厳密には生物ではありません。核酸やタンパク、脂質など、「生体物質が生物であるかのように集まり、限りなく生物に近い機能を備えた複合物質群」であるといえます。SARSコロナウイルスは、生物の細胞膜に相当する脂質二分子膜(脂質二重層)からなるエンベロープといわれる外被構造を持っているウイルスであるとされています。
 合成界面活性剤はこの脂質二分子膜からなる細胞膜を損傷することにより、細菌や植物など、生態系を構成するあらゆる種類の生物に対して生育(単細胞生物は増殖)阻害作用を示したり、高等動物の組織を損傷させるなどの毒性作用を示すことが知られています。つまり、合成界面活性剤は、SARSコロナウイルスが本来持ち、その感染力を維持するうえで重要と思われるエンベロープを損傷ないしは破壊することによって、感染力を失わせることができるものと考えられます。
 エタノール(含水)もSARSコロナウイルスを含め、多くの種類のウイルスの失活に有効とされていますが、これも有機溶剤としての脂質膜破壊作用やタンパク変性作用によるものと考えられています。これらの点では合成界面活性剤と似ていると思われるかもしれません。しかし、エタノールのこれらの作用が、人や生態系の生物に対して毒性として作用することは、常識的な使用方法ではまず考えられません。なぜなら、エタノールは速やかに気化して散布面に残留しないうえ、気化したエタノールが体内に取り込まれても、速やかに代謝され、何の問題もなく二酸化炭素として排出される運命をたどるからです。


◆社会的に許されないテロ的行為◆
 SARS対策は、多くの人の手に触れる機会のあるものに対して行なわれる場合が多くあります。街中に出て、いつものように触れるものが、SARS対策として、合成界面活性剤が残るように処理されていたとしたらどうでしょうか。皮膚が敏感な人であれば、湿疹やただれを起こすかもしれません。しかし、従来から効果があるとされているエタノールの場合は、処理しても残留しないため、このような問題を起こす心配はありません。あえて危険性のある合成界面活性剤による消毒法が、国立感染症研究所の説明のとおり、共用のものに対して行なわれたとすれば、これはもはやテロ的行為であると言わざるを得ないでしょう。

◆過敏な清潔志向はやめて、冷静な対応を◆
 とかく「ウイルス」や「ばい菌」と聞くと、極度に嫌悪感が駆り立てられて敏感に反応し、とにかく早急に撲滅することを考える風潮がわが国にはあります。一見して安全と思われるこのような志向は、逆に衛生面のリスクを高めかねない多くの誤解をもたらします。
 健康な生物は、常に毒性のない常在菌や弱毒性(あるいは実質上無毒)のウイルスの作用によって、毒性の強い細菌やウイルスによる影響を未然に防いだり、免疫力を高めたりしているものと考えられています。これらのことは人にもあてはまります。よくある誤解として、「ウイルスが体内に入ると必ず感染し、発病する」というものがあります。ところが、実際にはウイルスに打ち克つだけの抵抗力もしくは免疫力が予め備わっていれば、ウイルスが数個体内に入ったくらいでは感染したり発病することはないのです。SARSコロナウイルスについても然りです。最大の問題は食生活の偏りや不規則な生活などによる不摂生、殺菌剤含有製品の乱用などが原因とされる免疫力の低下なのです。
 つまり、規則正しい生活を心がけ、栄養バランスのとれた三度の食事を摂り、手洗いはいわゆる薬用石けんではなく無添加の石けんで洗い流すなど、過度な清潔志向にならない、本来あるべきごく当たり前のライフスタイルで生活することが、感染症の最も効果的な予防策になります。
 また、行政は市民が冷静な対応をとることができるよう、適切な対策を講じることが求められます。もしもSARS発症者が確認され、早急な対応が必要になったとしても、今回報告された合成界面活性剤による消毒法は公衆への健康影響や環境影響への配慮上、絶対に行なわれるべきではないことは言うまでもありません。そのような場合はエタノール消毒、もしくは可能な場合については物理的消毒法に限定し、市民感情を煽ることのないように配慮した対応を心がけることが求められます。


  
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消費者レポート第1247号(2004年1月17日)より記事転載
  *注1 参照先URL://idsc.nih.go.jp/
      (開設・管理者の都合により、予告なくURLが変更になる場合があります)
  *注2 成分表示表記上の「アルキルエーテル硫酸塩」
      
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