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携帯電話基地局が撤去へ
オルター通信1018号 記事
携帯電話基地局が撤去へ
●稼動中の携帯基地局が撤去される事に!
 
 携帯電話の中継基地局が、住民との紛争を経て、撤去されることになりました。稼働中の基地局の撤去は全国的に見て非常に稀な例だそうです。
 住民は裁判所での調停を申し立て、基地局からの電磁波による健康被害を訴えてドコモに基地局の撤去を求めました。しかしドコモは健康被害には根拠がないと主張しています。撤去に応じるのは、基地局用地の貸借契約を結んでいるバス会社から、契約解除の申し出があったからだとし、撤去する代わりに住民には調停を取り下げるよう提案しました。健康被害の訴えは認められませんでしたが、住民は実を取り、調停を取り下げました。
 長く複雑な経過をたどりましたが、この文ではドコモの住民への対応と、「健康被害」の実態を中心に記録します。


●住民に説明せず基地局を建てた
 
 兵庫県川西市清和台の、住宅地に近接するバス会社の駐車場で2005年建設工事が始まりました。ほとんどの周辺住民は何の工事か知らされていませんでした。果たしてそれはNTTドコモの携帯電話の中継基地局で、12月に稼働しました。

◇地主の出した条件
 ドコモはバス会社の土地を借りて基地局を建てました。土地の貸借契約締結にあたってバス会社は「周辺住民の了解と、関係する地域の人々に説明して理解を得ること」という条件をドコモに課していました。
 この条件をドコモが満たしていなかったことが後に明らかになり、調停を通して、契約手続き上の齟齬とみなされ、契約解除できる要因となりました。

◇強引に住民同意とりつけ
 2004年ドコモ側は住民対応を開始しました。これには下請け会社があたりました。実際に会って話をしたのはわずか数軒に過ぎませんし、会った人にとってもはっきり記憶に残るような会見ではありませんでした。おおかたの家は留守だったので、ちらしのポスティングで済ませました。ちらしには連絡先が書いてあるので、反対の人は電話をしてくればよい。何の電話もなかったから住民の反対はないとみなしました。住民のなかには、反対だから同意のサインはしないとはっきり言った人もいました。しかしドコモ側はその人にもちらしを渡して、その後連絡がないから反対はないものと解釈しました。
 そしてドコモ側は、住民の概ねの同意を得て反対はなかったと自治会に報告し、自治会は同意書を出しました。この同意書を以てドコモはバス会社に条件を満たしたと説明したわけです。
 ドコモとバス会社の間で建設用地の貸借契約が成立し、2005年2月工事が始まり、12月に基地局運用が始まります。


●体調不良の人が続出
 
 運用開始後、年が改まる頃から周辺では体調不良を訴える住民が続出しました。
 ある小学生の男の子は、夜眠れなくなりました。医師に睡眠薬を出してもらいましたが、思うように効きません。昼間も家にいると耳鳴りがして具合が悪い。学校では機嫌良くしているのに、家に帰ると具合が悪くなる。困った母親は、自らも頭痛を抱えながら、子どもたちを車で外へ連れ出してあてもなく走り回るという日々が続きました。家族皆が昼も夜も家でゆっくりすることができなくなってしまいました。
 普段は特に持病もなく元気な70代の女性は、2006年3月のある日突然立ちくらみがして何度も繰り返し嘔吐しました。病院で診てもらっても原因はわかりません。食事も水ものどを通らないので脱水症状で点滴を受け、結局10日間入院することになりました。
 40代の女性は昼間目覚まし時計が鳴る音を感じました。側にいた家族に聞くと、そんな音はしていないといいます。春過ぎた頃からはどうにも身体がしんどい。倦怠感がひどくて横になっていることが多く、家での仕事もままならないようになってきました。夜も眠りが浅く疲れがとれません。もともと頭痛持ちではないのに、頭痛はするし、耳の中で「きーん」と音がします。頬のあたりの皮膚もちくちくと痛みます。大阪天満橋の専門医へ通院するようになりました。
 60代の男性は6月のある朝起床するとひどいめまいに襲われました。少しでも身体を動かすとめまいがして吐く。医師に詳しく調べてもらいましたが、原因はわかりません。この男性は若い頃帆船で航海した経験があります。この時のめまいは「太平洋で時化にあったような」感じだったそうです。

◇子どもに大きな影響
 症状は人によってさまざまです。耳鳴り、頭痛、不眠は多くの人が訴えています。そのほかにも、白内障を発病して急激に悪化した、記憶が混乱したり頭が変になっているのが自分でもわかる、動悸や息切れがする、血糖値や血圧が普段は正常なのに、ある時突然異常に高い値になった、てんかんや甲状腺の病気になったなどの症状が現れました。私が話を聞いた印象では、子どもや若い人は頭痛や耳鳴り、不眠、疲労感などで常に具合が悪く、比較的高齢の人は普段は大丈夫だけれど、たまにダムが決壊するように大きな症状が出るという傾向があるように思います。


●ドコモは住民との話し合いを放棄
 何軒もの家庭で日常の家庭生活が破綻するほどの影響が出たのですから、住民はドコモへ基地局の撤去を求めます。ドコモと住民との間で何度か話し合いが持たれました。その中でドコモは住民の健康影響についての疑問に対して、次のように答えています。

◇「グレーでも事業をすすめます」
 総務省が決めた指針よりはるかに下の電磁波強度でやっている。健康影響の研究も進められているが、完全に安全であるとはどの研究機関も言っていない。黒か白かは今のところ定かではない。被害の疑いがあるといって、事業をしなかったら発展もない。企業としては今のところはっきりは言えないけれど、影響がないと信じて事業を展開している。
 住民は土地を貸しているバス会社にも契約を解除するよう求めました。しかしそれには違約金を支払わなければいけないから、解除できないと言われました。

◇根拠のない事を理由に住民対応を放棄
 やがて2006年5月頃にドコモは、住民に対応するのをやめてしまいます。住民には建設時に同意を得ている。反対があれば建設していない。健康被害を訴えている人は以前から具合の悪かった人だ。住民説明会に外部団体の運動家が参加しているので、もはや住民説明会とは言えないなどと主張して、住民との話し合いを一方的にやめてしまいました。住民からすればこれらの言い分は全く根拠のないことです。これに反論する住民からの質問状には未だに答えないままです。


●紛争は調停の場へ
 話し合いによる解決の見込みがなくなったので、住民は弁護士を立てて裁判所での調停を申し立てることにしました。2007年5月末のことです。この時にテレビニュースで特集が組まれましたので、ご覧になった方も多いでしょう。7月の調停の場でついにバス会社が、これ以上住民と紛争を続けるのは耐えられないとして、契約を解除することにしたと言い、これを受けてドコモは1年以内に基地局を撤去することに合意しました。

◇バス会社の判断
 バス会社は、契約はバス会社とドコモの両社の合意で締結されたが、住民の同意を得ることが契約締結の前提条件だった。それなのにドコモは条件を十分満たさなかった。住民がバス会社にも訴えに来て紛争になっている。市行政も窓口をつくり、市議会でも請願を採択して、川西市として取り組みを始めた。テレビや新聞でも報道されてマスコミも動き出した。それなのに、ドコモは住民に誠実に対応していないと判断したようです。契約の前提条件をドコモが満たしていなかったので、契約手続きにあたり齟齬があったため、解除するのに違約金は必要ないということでした。

◇あくまでも地主の言うことを聞いた
 ドコモとしてはあくまでも契約の相手方からの解除の申し入れに応じたのであって、住民の健康被害の訴えに耳を貸したのではありません。
 基地局運用開始から丸2年経った2007年12月、ドコモは基地局を2008年4月頃には稼働を停止し、6月14日までに撤去すると表明し、住民側は調停を取り下げることで決着しました。


 記録 小西 佑佳子(川西市議会議員)
 (発行 日本消費者連盟関西グループ 草の根だよりNo.367より転載)


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