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BSE・うつ病・キレル子どもたち − 金属イオンと神経疾患−
通信874号記事
● 神経性疾患と地下水の金属イオンとの関係
2004年11月27日日本有機農業研究会講演録−Part3
講師:西田雄三さん(山形大学理学部教授)

  ● 人も牛・羊・鹿も同じ!  
  ● 神経疾患の原因は酸化ストレス
  ● 人間の心と体の働きを制御する鉄イオン
  ● その働きを阻害する酸化ストレスのもとは
  ● ”人の営み”
  ● 農薬や化学肥料も酸化ストレスの原因!

  ▼ オルター通信872・873号から連載中 ▼

すでに述べたように、スクレイピー(羊海綿状脳症)は記録上では250年前から知られている病気で、特に目新しい病気ではありません。このスクレイピーが十数年前、欧州で爆発的に蔓延し大量の羊が死にました。その処理として肉骨粉を牛のえさとしたことから、欧州でBSE(牛海綿状脳症)が大量に発病したといわれています。
 そして1990年代になって、イギリスでクロイツフェルト・ヤコブ病の青年が見つかりましたが、それがBSEに感染した牛を食べたからではないかと疑いが持たれ、BSE問題が一挙に大きな社会問題となったわけです。そのために大量の牛が処分されましたが、これも人間の業が原因であったことを忘れてはいけません。問題は、なぜ欧州の、ある地域でスクレイピーが蔓延したかです。
 BSE、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの多くの神経性疾患患者は、世界的に見れば孤発的に発生していますが、ある地域に集団で発症するという特徴があることはすでに明らかにされています。上で述べたスクレイピーは、アイスランド、スロバキア地区、コロラド地区に、ALS、パーキンソン氏病、アルツハイマー病も太平洋南西部(パプア島、ニューギニアなど)や、日本では紀伊半島南部に集中して発症していました。
 この地域特異性について多くの研究者の研究結果から、その地区の地下水のアルミニウムイオン、マンガンイオンの含有量が圧倒的に多いことが指摘されたのです。特にスクレイピー発症地区におけるマンガンイオンの高い濃度が注目されています。
 このような事実から、これらの神経性疾患と金属イオンが大いに関連していることは理解できると思います。
 また、日本の紀伊半島においては戦後(昭和40年代以降)は、患者が激減しています。それは水道水の普及が原因であると思われますが、このことも井戸水(地下水)に含まれているアルミニウムイオン、マンガンイオンが発病と関連していることを示唆しています。
 マンガンイオンについては、以前マンガン鉱山で作業していた多くの人が、現在、パーキンソン氏病に似た痴呆症に悩んでいることからも、その有害さがわかっていただけるものと思うし、また、先に述べた地区で見つかるスクレイピー、クロイツフェルト・ヤコブ病患者の脳にマンガンイオンが圧倒的に多く存在していることも確認されています。
● 脳から筋肉への情報伝達システム
さて、このようなアルミニウムイオン、マンガンイオンが神経性疾患とどのようにかかわってくるのでしょうか。これを明らかにするには、正常に運動できる理由から述べなくてはなりません。われわれは、日ごろなにげなく運動しているが、それは筋肉が動くからですが、では筋肉さえあれば運動ができるでしょうか。否です。筋肉をコントロールする情報がないと、正常な運動ができないのです。これは患者さんを見れば判ります。この筋肉をコントロールする情報は、すべて脳からきているのであって、脳の重要性をここで改めて述べるまでもありません。
 さて、人間をはじめ生物は無数の独立した細胞からできているのですから、脳の細胞から筋肉細胞まで、どのようにして情報が伝わるかを知らねばならなりません。この問題はすでに解決されていて、細胞間の情報交換は神経伝達物質を介して行われることが明らかになつています。(図- 3)
図3
 いわば、キャッチボールのようなものです。ピッチャー(一つの細胞)からボール(神経伝達物質)が投げられ、それをキャッチャー(他の細胞)が受け取る。このときボールにはピッチャーの意思が隠されており、キャッチャーはそれを解読しないといけない。キャッチャーはボールを取るとき、素手では取れず、ミット(レセプター)を用いて取る。ミットが閉じていてはボールを取れないし、またミットは、ボール(神経伝達物質)に合わせた形(固有の構造)をしていないといけない。
 プリオン蛋白は、シナプス(神経細胞どうし、または神経細胞と他の細胞との接合部、または接合関係)上でのレセプターとしても作用するといわれていますので、その構造が非常に重要であることを、このことから理解していただけると思います。
 ボールを受け取ったキャッチャーは、次にはピッチャーになり、次の細胞にボール(神経伝達物質)を投げ、これが続いて、脳の指令が筋肉細胞へ届くのです。
 情報伝達には、ピッチャー、キャッチャーとボールが必要であり、細胞(ピッチャーとキャッチャー)が無ければ、意味がありません。BSEでは脳が海綿状になっていますが、それは多くの神経細胞が欠落しているためであり、それでは情報伝達は思うにまかせず、へたり牛の状態になるのです。
● 神経伝達物質によって制御されている心と体
 細胞があったとしても、ボール(神経伝達物質)が無ければ、これもまた、情報伝達上で支障をきたします。これらの神経伝達物質には、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどという、皆さんにも聞きなれた化合物があります。
 楽しいことがあって大喜びしているとき、ドーパミンが増え、喜びを与え興奮させます。満員電車でストレスを感じ始めるとノルアドレナリンが分泌され、不快感が高まります。そんな心の高ぶりを鎮め、「ホッ」と落ち着かせ安らぐ気持ちを作り出すのが、セロトニンと呼ばれる物質です。
 このような重要な化合物ですが、どのように準備したらよいのでしょうか。はっきりといえることは、この種の化合物は、食事からは摂れないので自分の脳で合成しないといけないということです。それらの脳での合成図式はすでに明らかにされており、これを明らかにした科学者たちはノーベル医学・生理学賞を受賞しています(図 - 4)。
 ここからは化学の専門的な話が入りますが、少し我慢してください。ドーパミンは、ドーパという化合物からできます。このドーパについては聞いたことがある方もあるかとは思いますが、これはバーキンソン氏病患者の特効薬です。そうです、パーキンソン氏病はドーパミン不足から生じる病気です。ドーパミンは神経性伝達物質の中でも、運動に関する情報を行うもので、これの不足は、運動障害を引き起こします。セロトニンは、ここで述べたのと違った酵素系で行われますが、反応機構は全く同じです。
図4
図5
● 神経伝達物質の合成に必須な鉄イオン
 さて、この合成系でなにが一番の問題かといいますと、実はチロシンからドーパ、フェニルアラニンからチロシンを合成するときのベンゼン環への酸素原子の導入反応(図−5)なんです。
 酵素反応でのフェノールの酸素原子は、空気中の酸素分子から誘導されます。しかし、一般的に酸素分子と有機物との反応性は非常に低く、ベンゼンを空気中に100年置いても、フェノールにはなりません。酸素分子のこの性質のために、人間は安心して地球上に住めるのですが、でも、図- 5の反応は進行してもらわないと困るのです。ここで登場するのが、触媒(酵素)で、この酵素は鉄(U)イオンを含んでいます。神経伝達物質の合成に鉄イオンが必須なのです。図- 6には、セロトニン合成図式を示しましたが、このときも鉄イオンがなければ、反応は進行しません。
 これらの反応を触媒する酵素の中で、チロシン水酸化酵素の構造決定も行われ、鉄イオンの役割、補酵素としてのプテリンの役割、そして反応機構についても考察されてきていますが、最近、このような反応における酸素分子活性化の機構について新しい概念が提案され、これまでの機構に疑問が投げられています。私はチロシン水酸化酵素について、これまでにない新しい反応機構を提案しています。細かいことは省略しますが、この酵素での鉄イオンの役割は、酸素分子の活性化をプテリンとの共同作業で行い、その活性化された酸素分子と基質(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン)との反応を可能にし、基質に1個の酸素原子の添加反応を触媒するというものです(図 - 7)。


  ▼ 次号オルター通信875号に連載予定 ▼

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図6
図7
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