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メタボリックシンドロームあれこれ
オルター通信1042号 記事
 本年4月1日から特定検診制度が始まりました。その内容はまだご存じない方が多いと思います。これは要するに生活習慣病の予備軍に生活指導を行い、将来的に医療費を2兆円削減する目的で作られたものです。
 対象者は40歳から74歳までの健康保険加入者です。この検診でメタボリックシンドローム、あるいは予備軍と判定されると、特定保健指導(食生活と運動を主とした指導)を受けることが義務づけられています。そして、5年後に成果を判定し、結果が不良である健康保険加入者には財政的なペナルティが課せられます。
 この特定検診制度と同日に施行開始となった後期高齢者医療制度には、始まってみて皆さん驚いたと思います。保険料の徴収方法が特別徴収と称し、年金から天引きが基本となっていたのです。そのような大事なことは少しも知らされずに、厚労省のペースで国会で法律が成立してしまったのです。どうも厚労省は財務省の下部組織の観が拭いきれません。この国の医療制度は国民の福祉より国の経済重視にあります。
 特定検診制度も「メタボ」という言葉が一人歩きしています。昨年8月には伊勢市市長の発案で「7人のメタボ侍、内臓脂肪を切る」と称し、減量作戦に取り組んでいた幹部職員一人が運動中に急死する事件が起こっています。このように、「メタボ」という言葉は流行となりましたが、5年後の判定で結果不良者にペナルティが課せられるということは殆どの人が知らないと思います。
 さて、ではメタボリックシンドロームとはどういう病態でしょう。
 動脈硬化の危険因子である、肥満、高血圧、高脂血症(中性脂肪と悪玉コレステロールの増加)、耐糖能異常(糖尿病)が重なると、心筋梗塞とか脳梗塞などの危険性が非常に高まるという事が疫学的研究により段々はっきりしてきました。 そして、危険因子重積症候群、シンドロームX、死の四重奏、内臓脂肪症候群、インスリン抵抗性症候群など多くの名前が付けられていましたが、2002年に米国の国立コレステロール教育プログラム(NCEP)においてメタボリックシンドロームの名称が提唱されて、以後この名称が、一般に普及してきました。
 これは、内臓に脂肪が蓄積した肥満(内臓脂肪型肥満)が中心的な役割を果たしていると考えられ、内臓脂肪型肥満により、高血圧、糖尿病、高脂血症などが引き起こされた状態をメタボリックシンドロームと呼ぶのです。

●二つの肥満タイプ
 身体のどの部分に脂肪がつくかによって、肥満は二つのタイプに分かれます。(図1)「洋なし」タイプと「りんご」タイプです。洋なしタイプは女性に多く、下腹部、腰回り、太もも、臀部の皮下に脂肪を蓄える「皮下脂肪型肥満」です。りんごタイプは、中年以降の男性に多い、内臓の周りに脂肪が溜まる「内臓脂肪型肥満」です。
 図1で下の図はお臍のレベルで撮影したCTスキャンです。上がお臍の側で下が背中側です。洋なし型では皮下脂肪が多く、りんご型では内臓脂肪が多いことがよく分かると思います。
 女性が皮下に脂肪を蓄えるのは10ヶ月間という妊娠を乗り切るために蓄えるのであり、10ヶ月定期の脂肪貯蓄です。従って、この脂肪は中々燃えにくく、蓄えると中々引き出せないので、女性はいったん皮下脂肪がつくと痩せるのが難しいのです。
 一方、内臓脂肪は燃えやすく、これは男性が闘争のために蓄える脂肪です。闘争すなわち交感神経が緊張すると燃えます。すなわち、直ぐに使える普通預金型の脂肪貯蓄です。
 さて、皮下脂肪型肥満は一目瞭然ですが、内臓脂肪型肥満は分かりにくい事があったり、皮下脂肪型肥満に隠れていたりします。そこで、簡単な目安として、ウエスト径(へそ周り径)が男性では85cm以上女性では90cm以上あれば、内臓脂肪型肥満が疑われます。

●メタボリックシンドロームの診断基準
 図2を見て下さい。お臍の位置でのウエスト周囲径が男性では85cm以上、女性では90cm以上あることが必須項目です。これに選択項目が2つ以上あればメタボリックシンドロームとなります。
 選択項目は、高脂血症項目は血中トリグリセリドが150mg/dl以上または血中HDLコレステロール(善玉コレステロール)が40mg/dl未満。高血圧項目では最大血圧が130mmHg以上または最小血圧が85mmHg以上。糖尿病項目では空腹時血糖が110mg/dl以上、です。
 ただし、高血圧、高脂血症、糖尿病の治療を受けている場合はその数値に関係なくそれぞれの項目がカウントされます。
 さあ、あなたは如何ですか?(但し、この診断基準は日本独自のもので、国内外より批判があります)。

●内臓脂肪は悪者か
 内臓脂肪細胞はアディポサイトカインという生理活性物質(免疫系のホルモン)を分泌します。このアディポサイトカインには善玉のアディポネクチンと悪玉アディポサイトカインのPAI-1´TNF-αを分泌します。悪玉アディポサイトカインは血管内皮細胞を傷つけます。血管内皮細胞は血液が固まらないように働いていますが、傷が付くとそこからコレステロールが血管壁に潜り込んだり、血栓のとっかかりとなったりします。アディポネクチンは血管内皮細胞の傷を修複する働きがあります。内臓脂肪が増えるとこの善玉のアディポネクチンは減少してしまうことが分かりました。 そうすると動脈硬化になったり血栓ができやすくなったりするわけです。
 また、悪玉アディポサイトカインはインスリン抵抗性という状態を招き、インスリン抵抗性は糖尿病と高血圧に繋がります。糖尿病と高血圧は共に動脈硬化を促進します。
 また、内臓脂肪の脂肪細胞はレプチンと言うホルモンを分泌します。このレプチンは血小板にも働きかけることが分かりました。血小板の働きは、怪我をして血管が破れて出血すると破れた箇所に集まって血の塊、血栓を作り出血を止めることにあります。これは、怪我をして出血が命取りとなる石器時代には有利な現象でした。
 ところが、内臓脂肪細胞から盛んにレプチンが分泌されると、出血がないのに血小板に働きかけ血小板を凝集させて血栓を作り易い状態にしてしまうわけです。血栓が脳の血管にできて詰まると脳梗塞です。心臓の冠動脈に詰まると心筋梗塞となります。
 さらに、内臓脂肪細胞はアンジオテンシノーゲンという血圧を上昇させるホルモンも分泌し、高血圧の元となるのです。高血圧は血管内皮細胞を傷つけ動脈硬化、血栓形成の方向に作用するのです。
 内臓脂肪は飢えと寒さと怪我の危険性に曝されていた石器時代には生きのびるのに有利な仕組みでしたが、飽食と運動不足にストレスの多い現代先進国においては、メタボリックシンドロームの要となり、動脈硬化、血栓症の元凶になってしまったわけです。

●本当の悪者は活性酸素
 さて、ここで糖尿病、高脂血症、高血圧から血栓が作られるのに重要な働きをするのが活性酸素なのです。この活性酸素を消去する仕組みが身体の中には備わっています。このうち、身体の外から補うことが出来るのはビタミンC、ビタミンE、カロテノイドなどのラジカル補足型抗酸化物質です。発酵食品にはこれらのビタミンの他にイソフラボン、ポリフェノール、グルタチオンなどの抗酸化物質が沢山含まれています。
 従って、メタボリックシンドロームの食事療法の要は発酵食品なのです。

●メタボリックシンドローム対策
■食事編
 内臓脂肪が溜まりやすい食事は高脂肪、高ショ糖、高カロリー、低繊維食です。
1.脂っこいもの、砂糖をたくさん使った菓子類、ジュース、ファースト フードなどを避け、あるいは緑黄色野菜や海藻をたくさん取ることが必要です。とりわけ、大豆を使った発酵食品、漬け物などを多く取ることを勧めます。まとめると、発酵食品を活かした和食が基本です。
2.視床下部の満腹中枢に満腹信号が届くには最低15分かかります。従って10分で食べてしまうと、満腹を感じないために過食になってしまいます。ある程度硬いものを30分以上掛けて良く噛んで食べると自然と腹八分目になります。
3.間食にお菓子は避け、食べるのであれば果物にしましょう。ながら食は厳禁。
4.味付けは醤油、味噌、酢などの発酵調味料を使い、塩分の害を防ぐようにしましょう。
5.寝る直前に食べると内臓脂肪が溜まりやすいので就寝前5時間以前に食べるのがベストです。
6.歳を取れば、夕食は少し軽くし、朝食と昼食にウエイトを置きましょう。

■運動編
1.内臓脂肪を燃焼させるのは運動開始20分からです。従って有酸素運動(ゆっくり呼吸しながら行う運動、ウォーキング、ジョギング、水泳など)を20分以上、週に3回以上行いましょう
2.肥満の人は1日1万歩を目標に毎日歩きましょう。
3.夕食30分後から30分以上の運動は効果があります。
4.ながら運動、できる範囲で身体を動かす。ストレッチ、竹踏み、足揉みなど、ジョーバもお勧め、貧乏揺すりでもOKです。
5.休日はサイクリング、ハイキングなど楽しみながら運動量をアップしましょう。

 「コーボン」の生産者「第一酵母」提供
 (Health&Love 生活医学Journal 第593号 2008年7月号より転載)
 ストレスクリニックおおにし内科・大西秀典


図1
図2
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