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日豪FTAで日本の食卓から「国内産」が消える!
オルター通信1017号 記事
日豪FTAで日本の食卓から「国内産」が消える!
  いま、日本の農業を揺るがすものとして、日豪FTAが注目されています。「日本に農業はいらないのか」と生産者が怒りの声を上げていますが、これは生産者だけの問題ではありません。食品の安全性や社会、環境にまで関わる、私たち消費者自身の問題でもあるのです。
 FTA(Free Trade Agreement)とは日本語で「自由貿易協定」と言い、二つ以上の国によって結ばれる、関税の撤廃や制度の調整などによる相互の貿易促進を目的とした条約のことです。そこでは工業製品から農水産物、通信やサービス、または労働力まで、あらゆる市場の相互開放が取り決められます。
 日本はこれまで、シンガポールやインドネシア、フィリピン、マレーシア、タイ、ブルネイなどの東南アジアの国々、または南米のメキシコやチリなどとこの協定を結び、韓国やベトナム、インド、スイス、そしてオーストラリアと締結に向けた交渉を進めています。

●進む日豪FTA交渉
 オーストラリアとの交渉は2006年12月、安倍首相(当時)とオーストラリアのハワード首相との電話会談により、それまでの政府間共同研究を踏まえて、交渉開始が正式に合意され、第1回目の交渉が07年4月にオーストラリアのキャンベラで、第2回目が07年8月に東京で行なわれています。
 この交渉では主に、日本側から主要輸出品である自動車・自動車部品、鉄鋼製品、電子・電機機器などの関税引き下げが要求され、オーストラリアからはその見返りとして、同国の主要輸出品である農産物の関税引き下げが要求されています。

●主要農産物を直撃
 こうした相手国が工業製品を受け入れ、日本が農水産物を受け入れるというパターンは、これまで日本が結んだFTAでは、ほぼ共通した内容でした。ですから、農産物の受け入れが、オーストラリアとの協定ではじめて取り入れられるわけではありません。にも関わらず、日豪FTAがこれほど問題視されるのは、受け入れる農産物の内容と、オーストラリア側の輸出可能量が、その他の国とは大きく異なるからです。
 これまで結ばれた協定で受け入れた農水産物は、バナナやパイナップル、マンゴー、ドリアンといった熱帯果実やオレンジやぶどう果汁、エビやエビ調整品、キハダマグロやカツオ、ギンザケ・マスといった海産物などが主だったものでした。もちろん、これらが日本でもとれないわけではありませんが、質・量的に日本の農水産業全体を脅かすものではありません。
 ところが、オーストラリアとの協定では、小麦・砂糖・乳製品・牛肉といった、毎日の食卓に欠かせない主要農産物の輸入関税が原則撤廃されると見られています。現在、高い関税をかけてやっと国内産と同程度にまで市場価格を引き上げているこれらの農産物が、関税がゼロで入ってくるとしたら、まず日本の生産者は太刀打ちできません。

●けた違いの価格・量
 たとえば乳価では、日本の生産者乳価が70円/kg程度なのに対し、オーストラリアの乳価は20円/kg程度、日本の3分の1以下といわれます。砂糖では、てんさい糖で約6割、かんしゃ糖で9割近くもオーストラリア産の方が安いといわれています。そして、オーストラリアの輸出可能量は、小麦で日本の消費量の約2・7倍、砂糖で同じく約2倍、牛肉で同じく約1・2倍もあるといいます。つまり数字のうえでは、これらの農産物について、オーストラリアは日本で消費するすべてを、より安く輸出することができるということです。
 さらに問題なことに、関税が撤廃される農産物に、コメも含まれる可能性があることです。オーストラリアで生産されるコメの8割はジャポニカ米で、品質もよいといわれています。生産量は過去最高でも130万tですから、日本の総消費量900万tすべてをまかなえるわけではありませんが、価格は60kgあたり3600円程度といわれますから、国内産のコメ生産費すら大幅に下回ります。

●自給率12%台に
 つまり、日豪FTAが結ばれれば、日本の農業は成り立たなくなり、そのほとんどが消滅するということです。その結果、日本の食料自給率はカロリーベースで30%まで下がると見られています。また、そうなれば当然、日本に農産物を輸出している他の国々、アメリカやカナダ、ニュージーランド、EU(欧州連合)、そして中国なども同等の条件を要求してきますから、いずれ自給率は同じく12%まで下がると農林水産省は試算しています。輸入なしには、日本人は食べていけなくなるということです。
 これまで私たちは、安心できる食べものとして、国内産を重視してきました。特に最近では、中国産野菜の残留農薬や、アメリカ産牛肉のBSE(牛海綿状脳症)への不安などもあり、あらためて国内産への関心が高まっています。もちろん、外国産のすべてが危険というわけではありませんし、誰が何を選ぼうと自由ですから、外国産が入ってくることそれ自体が悪いわけではありません。しかし問題は、「選べなくなる」ということです。
 もちろん、一部のブランド力のある国内産は、残る可能性があります。しかしそれは、私たち庶民が日常的に食べるには、あまりに高級なものとなるでしょう。お金持ちは安心な国産を″選んで″食べ、貧乏人は不安を抱えながら輸入品に甘んじる、まさに「食の格差社会」が訪れるのではないでしょうか。

●農業が消滅するとは?
 問題は、食べものだけにとどまりません。日本から農業がなくなるということは、農業や農村が社会、文化、そして環境などに対して果たしてきた多面的機能が失われるということです。
 地方はますます人が住めなくなり、ふる里が失われ、私たちが「日本らしい」と感じる風景が姿を消します。そして、日本全体で琵琶湖40個分に相当する水田や、地球10周分の距離を持つ水路による治水能力が失われれば、水害の危険性が高まるばかりか、その水によって育まれた生態系が失われ、影響は海にまで及ぶかもしれません。
 日本から農業が失われるということは、これまで私たちの社会が前提としてきた、あらゆる循環が失われるということです。         


 (吉村英二)
 (消費者レポート 第1382・1383合併号より転載)


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