通信販売の法規(特定商取引に関する法)に基づく表示

なぜ粉ミルクに「警告表示」が必要なのか!
オルター通信917号記事
乳児用粉ミルク問題を考える会
(IBFAN-Japan)代表 城所 尚代
2006年2月7日 消費者リポート第1321号記事転載
粉ミルクは正しい情報が必要な工業製品
2005年11月30日、乳児用粉ミルク問題を考える会は、「消費者と助産師のための集中講座」を行いました。テーマは「乳児用粉ミルクへの警告表示実現にむけて」というもので、人々の乳児用調整粉乳(粉ミルク)への認識を変えるために、「たばこ」と同様に粉ミルクには警告表示が必要であるという内容でした。
 消費者である母親やその家族、また医療従事者は、粉ミルクとはどのようなものであるかを正しく認識する必要があり、工業製品である粉ミルクには潜在的な危険があることを知らなければなりません。正しい情報があって、はじめて消費者は選択肢を持ち、「消費者責任」をとることができます。従って、製造者(乳業メーカー)は、「製造者責任」を果たすために、消費者に製品に関する情報を提供しなければならないのです。
 1955年、森永ヒ素ミルク中毒事件の直接の被害者は乳児でした。しかしその母親たちは、加害者ではないにも関わらず、「ヒ素ミルクを子どもに飲ませてしまった」と言って自分自身を責め続けたと言います。当時、原告側弁護団長となった中坊公平さんは、母親たちを「罪なく罰せられる被害者」であると表現しました。
 当時、白衣を着た医師や看護師から勧められる粉ミルクに疑いを持つ母親はいませんでした。テレビや病産院のポスター等で伝わる「母乳より栄養のある粉ミルクを」という宣伝に心を奪われた母親も多かったでしょう。
 現在も、「赤ちゃんにとって母乳が一番」と明記しながら、「母乳に近づけた粉ミルク」という宣伝文句で、母乳と粉ミルクには大きな違いがないと感じさせる表現を使っています。まったく違う物をあたかも同じ物であるかのようなイメージを持たせることは、消費者に正しい情報を提供していないことになり、同じ過ちを犯すことになりかねません。
たばこ以上に警告表示が必要な理由
昨今、たばこへの認識が大きく変わったのは、警告表示によるところが大きいです。
 しかし、たばこに対する警告表示への動きが活発になったのは、医療業界による発がん性等の健康被害の報告や、その実証があったからです。それ以前は、危険性のあるものだという人々の認識はなかったと言えます。
 たばこと違い、粉ミルクによって乳児の健康に害があったとしても、その因果関係を証明することは大変に困難です。ヒ素ミルク事件は、偶発的な事故であり警告表示を行なう必要はないというのが大方の見解であったとしても、工業製品である以上、潜在的な危険性を伴っている可能性は否定し難いのです。
 食品成分の銅と硫酸銅について例を挙げると、硫酸銅は果実類等の病害虫駆除のための農薬として使用されており、71年に安全性未確認として食品添加物指定から削除されました。
 ところが83年には、銅は乳幼児の発達に必要な物質であるため、標準調乳濃度に調乳したときに6.0mg/lであれば、粉ミルクに限り強化剤として硫酸銅の添加が許可されました。
 微量であれば安全であるという考え方ですが、食品成分の銅とは違う物質である以上、その他複数の化合物が混合されても有効成分のみが体内に吸収され、不純物あるいは必要のない物質は体外に排出されることを実証する必要があり、立証が技術的に不可能であれば、危険性があることを表示すべきです。
 現在、一般的な粉ミルク缶の成分表には強化剤、調味料、乳化剤をはじめ、40以上の添加物が明記されていますが、その他に乳成分であるカゼインや乳清タンパク質を製造するうえで助剤等が使われています。しかし、助剤や製造用材等については表示義務はありません。
 また、栄養成分表にあるビタミンCと書かれている物質は、L−アスコルビン酸であり、シアノコバラミンはビタミンB12と表示されています。これらは強化剤として認可されているので、この表示は違法ではありませんが、消費者にとっては食品成分としてのビタミンだというイメージを持ちやすく、適切な表示方法とは言えません。
 当会は、製造過程で多種多様の化学物質が添加される粉ミルクは薬品と同じような扱いをする必要があり、医師の処方箋とその潜在的な危険性についての 「インフォームド・コンセント」が不可欠であると長年にわたって主張してきました。
病原微生物が開封前からいるという報告
ところが近年、粉ミルクには化学物質の問題のみならず、腸内細菌科に属する病原微生物が内在していることが各国で報告されていたのです。粉ミルクの缶を開ける前から入っているこの病原微生物は「Enterobacter Sakazakii」(坂崎菌)と呼ばれています。
 この微生物は中枢神経に感染し、髄膜炎や脳膿瘍等を発症させ、発育遅延や水頭症の後遺症を残します。全体的な感染率と発症率は低いものの、感染すると死亡率は40〜80%と高く、特徴としては病原体が少なくても発病し、70〜80度で死滅するといわれていますが、耐熱性を持っていることです。カナダ政府(Health Canada)は、「特に低体重児や免疫障害児といった免疫が低下した乳児が発病し易いが、健康な乳児であっても、必ずしもこの菌に免疫力を持つとは限らない」と報告しています。
 04年2月に開催されたFAO/WHO合同の国際食品規格委員会では、この菌は「公衆衛生上の深刻なリスク」であるとして、加盟各国に緊急勧告を出しました。この中に、「消費者に対しては粉ミルクは滅菌されていないことを強調すること」、「乳業メーカーに対しては調整乳を滅菌する開発を進めるよう指導すること」という勧告があります。詳細は割愛しますが、現時点では粉ミルクの製造・調整過程において滅菌のための高熱処理は困難です。従って、日本でも警告表示への対応が求められているはずです。
滅菌できない事実を警告しない厚労省 
81年に世界保健総会において採択された「母乳代替品のマーケティングに関する国際規準」 (国際基準) は、さらにWHO(世界保健機関)憲章第23条により「勧告」として採択されていますが、この規準は各国政府によって法制化しなければ法的拘束力を持ちません。
 当会は、この規準を日本の国内法として制定させるため地道な活動を続けてきましたが、特に病産院における無料サンプル配布の禁止や粉ミルクの缶やポスター等への「警告表示」の義務付けが最優先されるべきだと考えています。
 前述した「坂崎菌」において、きわめて重大な点は、厚生労働省から消費者に対して、粉ミルクが病原微生物に汚染されている可能性があるという警告が出されていないことです。乳業メーカーが自ら粉ミルクは無菌ではないと宣伝するはずもなく、薬害エイズ同様、多数の犠牲者が出てからでは遅く、再び行政が「不作為の罪」を犯す前に、自ら情報を公開すべきです。
 消費者の一人ひとりが、情報公開法による公聴会の開催を求める等、アクションを起こす時が来ています。次世代を担う乳児の健康を守るために、当会が求める警告表示は以下の通りです。
●母子手帳への表示
 乳幼児用調整粉乳の使用に際しては、医師の処方箋を必要とします。
●乳幼児用調整粉乳(粉ミルク)缶およびポスター等への表示
 乳幼児用調整粉乳には、潜在的な危険性があるので安易な使用は乳幼児の健康を害する可能性があります。


乳児用粉ミルク問題を考える会は、乳幼児用食品国際行動ネットワーク(International Baby Food Action Network)のメンバーとして79年から活動。04年10月にはコスタリカで発足25周年記念式典を行なう。現在IBFANは90か国に200余りのグループがあり、協働して活動する。98年、もう1つのノーベル賞と呼ばれる「ライト・ライブリフッド賞」を受賞。
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