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新型インフルエンザ騒ぎ
通信912号記事
開いた口がふさがらないタミフル2500万人分備蓄
 小児科医 林 敬次

消費者リポート第1317・1318号より記事転載

2005年のインフルエンザに関する報道の特徴は、鳥インフルエンザが変異して「新型」の恐いインフルエンザが流行するから、タミフルを大量に備蓄しようというものです。しかし、確認された鳥インフルエンザの人から人への感染は、ベトナムの子どもから母親への1例、ないしはもう1例だけです。
 また、よく引き合いに出されるスペイン風邪は、第一次大戦の塹壕や疲弊した社会で多くの死者を出したのであり、栄養・衛生のよい日本で多数の死者を出すはずがありません。
 このように、新型インフルエンザの「脅威」そのものが非常に疑わしいのですが、今回はタミフルの効果の程度や副作用に限って検討しました。
人口2%の日本が8割のタミフルを使用
 世界のタミフル使用量のうち、発売されてからの累計では、日本が76.7%(2446万人分)、アメリカが20.3%(646万人分)、その他3%(95万人分)で、毎年同じ様な比率です。世界の人口は03年で62.2億人、日本の人口はその2%(1.28億人)、アメリカは4.5%(2.8億人)に過ぎないのに、両国で約97%を使っているのです。
 毎年900万人分を使う日本が、その上に2500万人分を備蓄するというのですから、それだけでも開いた口がふさがりません。
抗インフルエンザ薬はタミフル以外にもある
 もうひとつのおかしさは、タミフル とほぼ同じ機序(メカニズム)で同じ程度にインフルエンザに効くリレンザという薬が無視されていることです。リレンザは吸入薬で、日本では大人だけに認可されていますが、世界的には子どもにも使え、WHOは両者を推薦しています。鳥インフルエンザはA型ですが、昔から使われているアマンタジンやリマンタジン(日本にはない)は、人のA型にはタミフルとほぼ同様の効果なのに、これらも無視されています。
 確かに、97年にはなかったアマンタジンが効かない鳥インフルエンザが、04年には増えています。しかし、タミフルも効かない鳥インフルエンザが出現しており、人間のインフルエンザにも効き難くなっているという報告があります。備蓄が意味あると仮定しても、タミフルだけにするのは危険だと言えます。
 こう考えると、アメリカのCNNが報道したように、タミフルを開発したギリアド社の大株主・ラムズフェルド国防長官など、米政権中枢の意向が強く働いていると考えたくもなります。
タミフルの重大な副作用
 タミフルのもうひとつの話題は、その副作用(注)です。
 医薬ビジランスセンターの浜六郎さん11月12日の学会で発表した、2人の子どもの死亡例が報道されました。
 17歳の男子は正午に1カプセルを飲んだ後に、ガードレールを飛び越えてトラックにはねられ死亡、14歳の男子は1カプセルを飲んで2時間後に自宅マンションから落ちて死亡しました。
  実は、この発表の前に副作用と考えられる例が相当数報告されていました。塩見正司さんの報告によれば、大阪府下で03〜04年に、1〜6歳までの子ども6人が脳が腫れた状態で眠ったまま死亡しています。学会でそのデータを見た私は、そのうち4人がタミフルを飲んでおり、1人がアマンタジンを飲んでいたことに気づき、死亡との関連を疑いました。塩見さんは副作用と認めていないのですが、この病気の第一人者である塩見さん自身が「これまで提唱されていないであろう」脳症として報告したもので、タミフルの爆発的な使用量と関連して日本に新たに出現した脳症と考えられました。浜六郎さんにこのことを話したところ、幼弱ラットで呼吸が止まるという動物実験などと一致する大事なデータだと、2人の名前で論文を出してくれました。
 実は、タミフルの発売元のロッシェ社は、この時すでに相当数の副作用を知っていたようです。ロッシェ社によれば、16歳以下の子が01年から毎年1人から4人の計13人死亡し、重症の神経系の副作用が122人(16歳以下70人)報告されていたのです。この中に、私が指摘した脳症の子ども達は入っていないかも知れません。
 確かに現在のところ、子どもの死亡率は100万人に1人、重症は16万人に1人と極めて少数です。アメリカでは大人の副作用ばかり報告されていますが、子どもへの使用量は日本の13分の1以下であることが関係しているのかも知れません。今後、報告が増加する可能性があります。つけ足しですが、死亡例13人中、男が11人と圧倒的に多いことが気になりますが、理由はわかりません。
タミフルの効果
 さて、タミフルが「特効薬」とされているのは、B型インフルエンザにも効くとされているからです。アマンタジンとリマンタジンは海外では長い間使われていましたが、A型にしか効きませんでした。日本では、アマンタジンが98年に抗インフルエンザ薬に認可されましたが、子どもには基本的に使えませんでした。
そこで、タミフルは子どもにもB型にも効く夢の特効薬とされ、01年以後、あつという問に世界の8割、しかもその半分を子どもに使ったのです。
 その効果のほどは、コクラン共同計画という世界中の厳密な研究を集めた調査によれば、症状が約1目早く治り(発熱は2.8日間が1.8日間になる)、中耳炎・気管支炎が1割ほど減りますが、いずれも大部分は自然に治るものです。また、タミフルは嘔吐・下痢などの胃腸症状が5〜10%出ますので、そのことも考慮して使うべきです。
 インフルエンザの予防のために、発病する前にタミフルを飲んでおくと、大人では発病を65%程減らせるとされていますが、子どもではロシェ社がデータの公表を拒んでおり、効かないのかも知れません。しかも、売り物のB型に対する効果にも確かなデータがありません。B型は大人の研究ではほとんど取り扱われず、子どもでも効果が疑わしいのです。
 また、重大なことですが、ぜんそくなどインフルエンザで重症化しやすい患者への効果が不明です。
 最後に、これも浜さんの指摘ですが、日本の研究では同じA型でも1型(H1N1)には効いているのですが、日本に多い2型(H3N2)には効かないという結果が出ています。これの意味するところは、「新型」はA型ですが効果がない可能性も大きいということです。一部のウイルスに効かなくなっていることは前述しましたが、それだけでなく「新型」にはまったく効かない可能性があるのです。このような薬を世界中から買いあさったうえ、大量に備蓄することにはどう考えても納得いきません。

(注)・・・今回紹介した重症の「副作用」例は、厳密には、薬との因果関係ははっきりしませんが薬とともに出現する「有害事象」のことです。

●参考 普通の5日間の処方での料金▼タミフル3637円、▼アマンタジン369円(ブランド品)か77.5円(ジェネリック)




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