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BSE・うつ病・キレル子どもたち金属イオンと神経疾患(2)
通信873号資料記事
BSE対策には「全頭検査」が不可欠だ!
−その理由を化学的に解明する− その2

2004年11月27日日本有機農業研究会講演録
講師: 西田雄三さん(山形大学理学部教授)

日本有機農業研究会機関誌「土と健康」(2005年No.368・369)から転載

(前号から続く) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さて、このプリオン蛋白とBSE、ヤコブ病発症との因果関係についてですが、このプリオン蛋白も当然われわれにとって必須なものです。その場合、この酵素がその作用を発揮するための固有な構造があり(固有な構造の必要性はすでにSOD酵素を例にして述べた)、それは正常型プリオンとして、PrPcと呼ばれ、主としてアルファーヘリックスからできています。これに対して病気を引き起こすプリオン蛋白の型も知られており(異常プリオンと呼ばれ、PrPScと書く。Scはスクレイピーから採っています)、ベーターシート構造が多くなっています。
 BSE発症と異常プリオン蛋白は本当に関連しているのかという点に関してですが、「異常プリオン」を発見し、1997年にノーベル生理学・医学賞を受賞したスタンリー・プルシナー米カリフォルニア大教授らは、最近、人工的に作成した異常プリオンPrPScをマウスに投与すると、BSEに似た症状が現れたと報告していますので、この説が正しいという前提で話を進めます。
◇「肉骨粉」とは無関係に発生する異常プリオン
 正常型プリオンと異常プリオンにおける最大の違いは上で述べたように、そのコンフォーメーション(構造)です(正常型はアルファーヘリックス、異常プリオンではベーターシート構造が多い)。このコンフォーメーションの違いはプリオン蛋白中での銅(U)イオンの周りの環境に違いが出てきます。この違いは、先に述べたSODで見られたのと似ています。スクレイピーの羊の脳では、このPrPScに加えて、途中で切断されたPrP(27-30)と呼ばれている蛋白が多く検出され、これが神経細胞死と密接に関連すると指摘されています。
 このような異常な切断は、異常プリオンPrPScでしか観測されないなどから、環境変化した銅(U)イオンと過酸化水素の作用で起きると推測されますが、このことは変異SODでの出来事と非常に似ていることに注意してください。
 さて、正常型プリオンと異常プリオンを試験管内で混合しますと、相互作用が起きて正常型プリオンが異常プリオンへ移行することが明らかにされています。これは、BSEが牛から人間へ感染する可能性が化学的には高いことを示していますし、これまでにもこの感染は高い確率で起きていたとする報告もありますが、ただ、実際の人間でこのような事態が生じているかは明らかにできていません。それは人体実験ができないからです。
 われわれがBSEの感染を問題にするということは、すでに異常プリオンが存在していることを前提としているということです。現実に、スクレイピーは記録上だけでも250年も前から存在していることが知られています。とすれば、それがどのような要因で発病したかです。
 ここで、変異SODと孤発型ALSの関係を思い出してください。SOD酵素では、蛋白の変形が遺伝とは関係なく起きることが指摘されています。そうだとすれば、異常プリオンも、感染でなく、純粋に生体内反応で起きる可能性があります。それらには、SOD酵素のところで述べたように鋼(U)イオンと過酸化水素が関与する反応 (蛋白の異常切断や変形) や、酸化ストレス由来のDNA、RNA損傷による変異プリオン蛋白(異常プリオンも含まれる)の形成などが含まれます。
 このことは、BSE発生はいわゆる「肉骨粉」に無関係に起きること、また酸化ストレス由来の場合、牛の年齢には無関係に発症する可能性があることを示唆しています。こういうと、思いつく事実が出てくるではないでしょうか。日本で、2003年10月に、二歳未満の肉牛でのBSEが発見されましたが、上の議論からいえることは、そのような事態は起きてもなんら不思議ではないということです。ただし、それを理解するのは、異常プリオンの発生機構と酸化ストレスとの関係を理解していただきたいと思います。
 先日、プルシナー教授が、米議会に対し、牛の全頭検査に消極的な米政府の政策を批判し、日本の安全策を強く支持する発言をしていたことが明らかになりました。
◇ 牛肉の安全性を確保するのは全頭検査のみ
 プルシナー教授は、昨年六月未開かれた米下院の食品安全に関する会議に出席し、「牛の異常プリオンは人間に感染しうる。欧州では、異常プリオンに汚染された牛肉や牛肉加工食品を食べた150人以上の若者らが死亡している」とBSEの危険性を強調。「今後も食品へのプリオン汚染はなくならないだろう」との懸念を示し、そのうえで、「日本が行っているような牛の全頭検査のみが、牛肉の安全性を確保し、消費者の信頼を回復することになる」と発言したとされています。
 これは、BSE発症の機構が酸化ストレスで進行し、「肉骨粉」などによらずとも発病するという私の考えから言えば、当然のことです。それから、農林水産省と厚生労働省は昨年11月1日、同年3月に牛海綿状脳症(BSE)に感染した死亡牛(94ヵ月)の末梢神経組織の一部や副腎からも、BSEの原因とされる異常プリオン蛋白質が見つかった、と発表しました。
 これも驚くに値しません。異常プリオンの発生機構を理解していれば、当然そのようなことは起こりえるのであって、これに対して小野寺節・東京大学教授は「筋肉中の神経で異常プリオンがみつかったのは初めて。BSEの末期に脳から末梢神経に飛んでいったと思われる」と述べたと新聞に報道されていますが、これはとんでもない非科学的な発言であることもわかると思います。
 ここまではALSとBSEという神経性疾患についておおまかに述べてきました。理解してほしいのは、BSEの発症の原因である異常プリオンは、「肉骨粉」とは無関係に、酸化ストレスが原因で発生するということです。この酸化ストレスは金属イオン由来で発生するもので、このような理由で、BSE、ALSなどの神経性疾患の発症過程を理解するには、「金属イオンの化学」が必須です。もちろん、化学の専門でもない方にあまり詳しくは述べられませんが、次節ではこの問題を議論したいと思います。

  ・・・・・・・・・・・・・・・・ (次号に続く)


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