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携帯電話10年以上使用すると腫瘍リスク増加
スウェーデン・カロリンスカ研究所が報告
電磁波問題全国ネットワーク 懸樋哲夫

 2004年10月13日、「携帯電話を長期間使用すると腫瘍のリスクが高まる」と、スウェーデンのカロリンスカ研究所が発表しました。欧米各国ではこのニユースが駆け巡っています。
 報告は、10年以上携帯電話を使用すると聴神経腫のリスクが2倍になり、頭の同じ側で使用していれば4倍になるというものでした。90年代に急速に普及した携帯電話ですが、これまでこのような長期の被曝についての影響が検証された例はありませんでした。アメリカの電磁波問題の専門誌である『マイクロウエーブニュース』はこれについて10月、「結局、携帯電話はがんのリスクがあるのだ。研究所の疫学者らは携帯電話が聴神経腫瘍、聴神経の良性がんの発症を増加させることを発見した。その神経は、携帯電話を普通に使用することで生じる電磁波を被曝したものだ」と紹介しています。

◆ IARCに指揮された国際共同疫学調査
◆ IARCに指揮された国際共同疫学調査
 聴神経腫瘍とは聴覚の神経に発生する良性腫瘍で、発症の前に、通常数年間ゆっくり成長するということです。1年に大人10万人あたり1人以内に発症するとされています。
 報告したカロリンスカ研究所は、ノーベル医学生理学賞を選定することで知られる国際的に信頼の高い研究所です。特に今回の研究は、「インターフォン研究」と称され、13か国が連携し、WHO(世界保健機関)に属するIARC(国際がん研究機関)によって指揮された共同研究なのです。この「インターフォン研究」 では、携帯電話の利用の有無、利用量と脳腫瘍、またいくつかの種類の腫瘍との関連を調査する国際共同疫学調査が進められており、その最初の発表だったわけです。
 調査はスウェーデンのいくつかの特定の病院と密接に協力して、3年の期間に新たに聴神経腫と診断され治療を受けた患者を対象になされたものです。研究に協力してくれることに同意が得られた約150人の聴神経腫の患者と、600人の対象者が参加しました。彼ら全員から携帯電話の使用について、またその他の重要な項目について詳細に質問して統計をとっています。
 研究を指揮したアンダーズ・アールボム教授(同研究所副所長)は、「これらは強力なデータだ。いかに強力かは発表後に合意がされていく中で定まっていくだろう。結局は他の『インターフォン研究』の報告も、科学団体に精査され、首尾一貫した評価が次第に浮かび上がってくるだろう」と語っています。
 この研究では、EUやスウェーデンの医学団体の基金が使われました。ここには事業者からの資金も提供されていますが、「インターフォン研究」への基金の提供は、完全な科学的独立を保証する合意のもとでなされたものとなっています。
◆ 精子の減少、吐き気・頭痛などの調査報告も
  この発表はアメリカではNBCテレビ(04年10月15日)、イギリスではBBC(04年10月14日)などで報じられています。ほかにも新聞や多くの専門誌などでも取り上げていますが、日本ではいまだ月刊誌『テーミス』12月号に紹介されたのみです(04年12月18日現在)。
 これまでも携帯電話によって脳腫瘍のリスクが増加するという報告はいくつか出されていました。携帯電話を使用している側の頭に脳腫瘍が増加しているという報告もあったのですが、否定する論文も出され、論争になっていました。
 脳腫瘍以外にも健康影響を示すレポートがあり、最近でもハンガリーの研究グループが、携帯電話を常に持ち使用している男性の精子が減少していると報告しました。また、03年10月にはオランダの経済省などによる調査で、国際規格IMT-2000を採用した第3世代携帯電話の使用で吐き気や頭痛が起きることを報告しています。血液脳関門や細胞への影響があることを明らかにし、脳腫瘍に至る可能性が指摘されてきました。そして、それらに対してもまた反論があります。しかし、いずれにしてもこれらは短期の影響を見たものでした。10年以上使用するという経験はなかったのです。
 日本の総務省や各国でも、ラットなどを用いた実験などを行なって、「安全だった」とする報告もあります。しかし、こと脳腫瘍については、ラットの寿命の期間で腫瘍の発生がなかったとしても安全性の証明にはならないということになるのです。
◆ 子どもに使わせない∃ーロッパ
 今回のカロリンスカ研究所の報告が出る前でも、ヨーロッパでは長期の影響が不明であることから、子どもに使用させることはやめようという警告がされていました。
 イギリスでは、00年にスチユワート博士をリーダーとする研究グループの報告で、子どもの携帯電話の使用に対して警告されました。このグループの研究はイギリスの国家的規模の調査であつたのですが、その名を「独立した専門家グループ」として、業界などからの干渉を避けるよう配慮された研究でした。この報告を受けてイギリスの政府は、「16歳以下の子どもには携帯電話を使わせないように」とするリーフレットを学校に配布するなどして、使用の禁止を勧めています。
 他の国でも警告がされています。ロシアでは放射線防護委員会がイギリスと同様に、「16歳以下の子ども」は使用すべきでないとしています。ドイツでは01年7月、放射線防護局の所長が「子どもは携帯電話を使用すべきでない。大人も使用をできるだけ控えるべきだ」と見解を発表しています。また同年12月には、同じくドイツの小児科学会でも「成長期の子どもには厳しく制限すべきだ」と勧告しました。他にもヨーロッパの多くの国で医学団体などが同様の警告を発して、子どもには携帯電話を使わせないようにというのが一般化しているということです。

◆ 子どもに勧める日本
  日本では、現在まで業界団体や国の機関などは「安全だ」と言い続けています。むしろ、盛んに子どもをターゲットとしたテレビCMを流し、夜の塾通いなどに持たせた方が「安全」だと親を脅して売っています。こんな中で、インターネットや携帯電話に関連し子どもが犯罪に巻き込まれている社会の現象に関する議論では、「ここまで普及していては一律に禁止ということはできない。安全な使い方を教える必要がある」という、使用を前提とした主張が多く見受けられます。これは電磁波による健康影響を無視したところでなされているもので、こうした議論をする際には必ず子どもの健康リスクを考慮すべきところです。
 ヨーロッパ各国の警告は子どもへの影響がまだ明確になっていない時点でも行なわれていたのです。これまでの公害の経験から「予防原則」の考え方が浸透しているためです。
 総務省の電波環境課は『テーミス』の取材に、「携帯電話を自主的に使わないとするのは個人の判断」と答えたそうです。しかし、法で基準を作りながらこのような「自己責任論」のようなことを言っていていいものでしょうか。基地局アンテナからの電波や電車内など、「自己責任」では避けられない影響もあります。
 このたびのカロリンスカ報告は、日本がこのまま現状を放置し続ければ、この先大きな禍根を残すことになることを明確にした
ものと考えられます。
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