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テレビゲームで壊される子供の脳
 通信812号資料記事
早崎知幸医師(社団法人北里研究所)                      『明るい明日を考える集い』講演からの抜粋
テレビゲームの中の仮想世界は人間の脳をさび付かせる。自然の中で身体を動かし、五感に刺激を与えることが、脳を活性化させるということが分かってきた。
テレゲームの影響を受ける人間の脳
人間の脳というのは大まかに3つの部分に分けることができます。人間の脳を断面で切って横から見てみると、中心の所から後頭部にかけてあるのが、一番基本的な生命維持に関わる脳幹です。その周りに旧皮質、大脳辺縁系という感情など人間の情緒的な部分を司っている所があります。さらにその一番上に、新皮質と言われている『人間の脳』と呼ばれているものがあります。ここの新皮質が今日お話しすることに関係していきます。新皮質の中の前頭葉ですね。前頭葉の中に前頭前野という所があります。これが脳の中の指令塔的な働きをします。
 動物の脳というのは今辛いか、楽しいかということしか考えられません。将来自分はこういった人間になろう、だから今はつらくても勉強するんだといったことを考えることができる脳というのはこの前頭前野です。つまり一番人間らしい脳の部分といえます。ところが、この前頭前野が、テレビゲームによって非常に影響を受けてしまっているようです。具体的にどういう影響を受けているか。これは日本大学の森昭雄先生が研究されています。
 『ゲーム脳』からは脳波が出ていない
森先生は、簡単な脳波計を作るという研究開発の目的で、前頭前野、つまりおでこの辺りに脳波計を当てて脳波を調べていくうちに、本来働いているはずの脳が働いてない人達がいることに気づいたのです。コンピューターソフトの開発をしている人達の脳波を測ったら実は動いていない。最初おかしいなと思ったのですが、話を聞いたらそのコンピューターソフトの開発をしている人達は1日10何時間もずーっとパソコンの前に座っているのです。そこで他の人達と比べてみると、この前頭前野の脳波が落ちているということが分かり、調べて行くうちに、『ゲーム脳』というものがありそうだというところに行き着いたそうです。
 
 脳波には、α(アルファー)波、β(ベータ)波、θ(シータ)波、δ(デルタ)波などがあります。神経を集中するとα波が出るのですが、話を単純にするために活動している時の脳波はβ波だというふうに思って下さい。人間がいろんなことを一所懸命考えている時はα波の2.5倍以上のβ波が出ている、これが普通だと言われています。
 研究によると、テレビゲームをしている時の脳波が人によって、四つのタイプに分けられることがわかりました。テレビゲームを始めてもあまり脳波が変わらないタイプを『ノーマル脳』タイプといいます。
 ゲームを始めると脳波が少し下がるがやめるとすぐに元に戻るタイプ、これを『ビジュアル脳』タイプといいます。よくテレビをつけっぱなしで見ている人などに多いと言われています。
 もっと進んだ人になると、ゲームをする前からβ波がα波と同じレベルまで下がっている、こういう状態を『半ゲーム脳』という言い方をしています。
 最後に完全な『ゲーム脳』というのはどういうものかと言いますと、最初からβ波がほとんど出ていない脳。つまり脳の前頭前野の部分が働いていないわけです。こういう人はどういう人かというと、一日中何時間もテレビゲームをやりっぱなしの子どもなどで、いわゆるキレる子どもの脳波を調べてみると、こういうタイプが多いと言われています。
 実は、β波が下がる脳波というのは痴呆老人に認められる脳波でもあるのです。つまり若者でずーっとゲームをやっている子どもの脳が、痴呆老人と同じになっているということを考えると、ゾッとします。
仮想世界を見ていても前頭前野は動かない
 では何故テレビゲームをやると脳が動かなくなるか。しばらく前にバーチャルリアリティー(仮想現実)という言葉が出てきました。バーチャルつまり仮想の世界と現実の世界とは何が違うのでしょうか。
 例えば、ゲームをする時に目から入った情報と、実際にキャッチボールなどをする時の情報の伝わり方は脳の中でどう違うのでしょうか。
 キャッチボールをする時、現実の世界の場合ですね、まず目から入った情報は、視床というところを通って視覚野に入ります。その次にボールがどういう形で、どんな色かということを判断する部位に情報が行きます。さらにボールが来るならどの辺を飛んでいるのか、スピードはどれくらいかなどの情報とともに前頭葉に行きます。そしてボールが来ると、これを捕ったほうが良いのか、捕れないのか、当たったら痛いから逃げたほうがいいのか、それを判断するところが前頭葉ですから、前頭葉で「あっ、これは捕れるから捕ろう」、「早過ぎるから逃げよう」と判断して、そこから運動野というところに情報が行く。運動野から脊髄を通して手に情報が行って、飛んで来たボールを捕るということになるのです。
 つまりいろんな情報が脳に入って脳の中のいろいろな部位に行き渡って最終的に前頭葉で判断して、「じゃあ手をこう動かそう」と指令が行くのです。
 それに対して、ゲームをした場合の情報は、目から入った情報は視床を通って視覚野に行きます。形や色を判断するところまでは同じです。ところがテレビゲームの場合、これらの情報が前頭葉に行かなくなるのです。視覚情報が前頭葉を通さずにいきなり運動野に情報がいく。前頭葉で判断する機能を使わなくなってしまうのです。情報が入ったものが運動野に反射として伝わるだけです。そこでは人間として判断する脳の機能が使われていない。人間の脳は使わないとどんどん衰えていきます。ですからテレビゲームをずーっとやった場合、前頭葉が働かなくなるのではないかと考えられます。
 さらにゲームだけではなくてテレビジョンを漫然と見ているだけでも同じような状況になると言われています。携帯電話からのメールも文章のやり取りをしているから頭を働かせていそうですが、反射的な記号として脳は処理しているようです。実際脳波を測ってみると携帯電話でメールを始めると、β波が下がります。パソコンをやっても最初はいいのですが、続けていると前頭葉の活動は低下するようです。
 1999年アメリカの小児学会では、2歳以下の子供にはテレビジョンを見せないほうがよいという提言を、この時すでに出しています。それほど影響を与えるということです。これは何が悪いのかなと考えると、どうもテレビジョンからの一方通行の情報がよくないのではないかなと。
手足を動かすことで脳が活性化する
 人間の脳が発達していくためには双方向のコミュニケーション、つまり子供が何かしたいと情報を発して、それに対して親が答える。親が答えたことに対して「ああ、そうするのか」と子供が真似るとか、それに対してまた次の反応をするといった、お互いのその場でのコミュニケーションですね、双方向の情報のやり取りが脳の発達には必要ではないかと言われています。
 テレビジョンになると、こちらが何を言っても情報としては一方通行ですよね。そういうことをずーっと続けていると脳の発達としてはあまりよくないと言えます。小さい時からビデオをどんどん見せるというのも、やはり問題があるのではないかなと思います。よい面もあるとは思うのですが、デメリットがあることも知っておく必要があるのではないでしょうか。
 ではどうしたらいいのかという話になります。
 例えば、テレビゲームは具体的に何歳くらいだったらよいのか。脳の発達ということを考えた場合には、生まれてから3歳くらいまでに基本的な神経回路が作られます。3歳から10歳くらいの間に大まかな脳の仕組みが完成していくわけです。
 疫学調査でも、中学生になった子供にテレビゲームをさせてもゲーム脳にはなりにくいという調査結果があります。そういう事実を合わせて考えるとやはり中学生になる前、10歳以下の子供に関しては、できればやらせないほうがいいと思います。
 少なくとも長時間というのは避けるべきです。1時間コンピューターをやったら10分は休むなど、予め決めたほうがよいでしょう。
 もう一つは手足を動かすことです。テレビゲームで脳波の活動が下がった時に手足を動かすと、今まで下がっていた脳波が逆に上がってくるということがわかってきたのです。例えば、お手玉は非常によいトレーニングの方法だと言われていますし、足を動かすのもいいです。
 昔から『哲学の散歩道』という言葉がありますが、いろんなことを深く思索する時に歩きながら行なうというのは、理に適っているのです。足を動かしながら物を考えるというのは、いろんな想像で頭を働かせながらヒラメキに繋がるということでよいと思います。
 脳というのは動かしている限り錆つかないのですが、逆に使わないと必ず錆びてきます。
 テレビゲームのようなバーチャルな世界と、現実の世界は全然違うのです。デジタルの中ではなくて、実際に自然の葉っぱに触れたり、においをかいだり、肌で風を感じたり、そういう五感を使った現実の世界を感じ取ることが非常に大事なのです。
  (文責 世論時報社編集部)


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    (社)人間性復活運動本部広報誌
     世論時報11月号より転載
     平成15年2月16日
     東京都目黒区緑が丘文化会館での講演
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