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なぜ、給食費を値上げしてまでパン給食を続けるのですか?
オルター通信1046号 記事
学校給食と子どもの健康を考える会
●輸入小麦の高騰と米価の大暴落
 世界的な穀物・原油価格高騰の影響で、パンやめん類といった小麦製品の値上げが続いています。 
 小麦の食料自給率は13%(平成18年概算)しかなく、学校給食でも値上げを検討する自治体が増えています。例えば、福岡県では、66市町村のうち約30%に上る21市町村が、4月からの給食費値上げについて議会や教育委員会に諮ることを検討中であると、同県教育委員会の聞き取り調査に回答しています(3月7日西日本新聞朝刊より)。
 一方、米価は、平成19年度産米の全国作況指数が99だったにも拘わらず、大幅に下落。原因は、米の消費が減る中、生産調整の実効性を確保できず、構造的な生産過剰となっていることだとされています。農水省は平成19年10月29日、稲作農家の被害を防ぐため『米緊急対策』をとりまとめ、予算を投じることに決めました。農水省やJAなどは、稲作農家に対し、これまで以上に「生産調整を守るよう」求めています。
 生産調整の課題は、確かに大きいでしょう。しかし、問題の根本は、「日本人が米を食べなくなったこと」です。この先、人口減少が予想されているのですから、稲作農業はますます厳しくなります。農家の高齢化が進む中でこの状況が続けば、稲作の後継者はほとんどいなくなるだろうと危惧しています。

●パン給食が米離れをつくってきた
 米の消費量は、昭和37年度をピークに長期的に減少してきました。昭和37年には1人当たり年間119キロ、平成14年度は62.7キロと、わずか半世紀で半減しています。パンやラーメン、パスタなど、主食の選択肢が増えたことが理由の一つであることは言うまでもありませんが、もっとも大きな要因となったのが、家庭の朝食にパン食が定着したことです。
 ではなぜ、パン食がそれほど浸透したのでしょうか。背景はさまざまですが、地域や家庭環境など個別の状況にかかわらず、私たちが影響を受けてきたことに学校給食のパン食があります。多くの日本人は、「教育」という名の下で行われる学校給食によって、パン食を覚えさせられてきたのです。
 米の消費が半減する間、パンに合う食肉加工品や乳製品、油脂類などの消費は増え、伝統的な食品や調味料などの消費が減りました。パンに梅干しやこんにゃく、納豆、焼き魚、野菜の煮物などは合いません。パンを食べながらお茶を飲む人も少ないでしょう。パン食が増えた結果、米の消費が減っただけではなく、日本の食料自給率も39%にまで落ち込んだのです。
 戦後の学校給食は、脱脂粉乳とコッペパンが中心でした。当時の食料事情は厳しく、それで仕方なかったかもしれません。しかし、今は違います。日本人の主食を守ってきた稲作農業が米価の大暴落で苦境に立たされている中、なぜ、学校給食費を値上げしてまでパン給食を続けるのでしょうか。しかも、ほとんどの自治体は、「食育」や「地産地消」の予算を設けています。米の生産地では、朝食欠食の改善を目指した「めざましごはんキャンペーン」など「米の消費拡大」のための予算も使っているはずです。
 こんな矛盾をいつまで続けるのか、各自治体の首長や教育関係者の方々には、本気で考えていただきたいと思います。

●学校給食は「生きた教材」
 給食費を値上げしてまで、パン給食を続ける理由はありません。逆に、穀物や原油の価格高騰を機に、パン給食を米飯給食に切り変えれば、前述した問題や矛盾を解消できます。実際、一部の自治体は、米飯給食を増やすことを検討し始めました。米の大量生産地山形県では、週に3.5回の米飯給食を全国最多の3.8回にするよう決め、予算も計上しました。それが、私たちが支持する「まともな」自治体の姿勢です。
 米飯給食の利点は、農業や食料だけの問題ではありません。学校給食には『学校給食法』というものがあり、第一条には「目的」がこう書かれています。
 「この法律は、学校給食が児童及び生徒の心身の健全な発達に資し、かつ、国民の食生活の改善に寄与するものであることを鑑み、学校給食の実施に関し必要な事項を定め、もって学校給食の普及充実を図ることを目的とする。」
 つまり、子どもたちの心と体の健全な発達に寄与しなければならないと記されています。
 ご存知の通り、現在、子どもの健康問題は深刻化しています。小児生活習慣病という言葉まで登場し、特に肥満児の増加は深刻です。文部科学省の調査によると、約8%の児童が肥満傾向。外遊びの減少などさまざまな生活の変化が影響していますが、最大の原因が食の欧米化、高脂質(脂肪)の食生活であることは、すでに常識と言っていいでしょう。
 ご飯中心の食生活が崩れるとなぜ高脂質になるのか、具体的にみると明快です。パンやラーメン、パスタなどは、米飯と違い「油脂依存型」の主食。
 あっさりしたほうれん草のお浸しは合いませんが、ドレッシングをかけたサラダやバター妙めとの相性は抜群です。魚も、刺身ではなく、油を使ったフライやマリネ、カルパッチョならおいしく食べられます。パンは、ご飯に比べて水分が少ないこともあり、どうしても油脂類が欲しくなるのです。このことは学校給食でも例外ではなく、各校の献立表を見れば、いかにパン給食が油脂類だらけになっているか、分かるはずです。
 学校給食は「生きた教材」といわれます。それなのに、児童・生徒の健康に好ましくないとされる物を食べさせていいのでしょうか。パン食の献立は、『学校給食法』の「目的」にかなっていると思われるでしょうか?

●今こそ、完全米飯給食の実施を!!
 これまで多くの自治体は、農業・食料問題としての「地産地消」「米消費拡大」に予算を使いながら、一方では、子どもたちにパン給食を提供し、「米を食べない日本人」を増やしてきました。「農業、食料問題は、農水省、農政部、農政課」「学校給食は文部科学省、教育委員会」という、“縦割り行政”の弊害でしょう。長い間、こんな矛盾した施策に多くの税金が注がれてきたことは、民間企業なら大変な問題になるはずです。
 私たちは強く、学校給食の「完全米飯化」を要求します。せめて、パンやラーメンなどは月に1、2回程度にしてください。これまで、同じ要求が全国各地で出されていますが、多くの自治体や教育委員会が本気で考えることはありませんでした。関係者に多いのが、「米飯給食を増やすと給食費が値上がりして、父母の理解を得ることが難しい」という意見です。さまざまな試算をみると、若干材料費が上がる例が多いのは事実ですが、自治体によっては、従来の価格でも、米飯給食を増やすことで学校給食費が下がった例はあります。
 時代の転換期を迎えたいま、政府は4月以降の小麦の政府売り渡し価格を3割引き上げることを決定しました。穀物を使ったバイオ燃料の利用が広がる中、小麦の値上げが今回だけで済むのか予断を許しません。給食費の値上げを検討している自治体は、仮に値上げが度重なった場合、その都度の給食費値上げを実施するのでしょうか。
 子どもたちの健康、そして、日本の農業・食料問題を考えたとき、給食費を値上げしてまでパン給食を続けることに意味があるのか、今こそ、真剣に考えていただきたいと願っております。

 (学校給食と子どもの健康を考える会HPより転載[08.3.14])

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