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「年間1mSv」という被ばく線量限度を強調した国連人権理事会特別報告
オルター通信1313号 記事
※オルターが1Bq/Kg防衛ラインの根拠とした、広島・長崎の低線量被曝の疫学調査に基づき、国連人権理事会特別報告が日本政府の原子力規制のあり方を批判しています。


―東日本大震災の歴史的位置― 抜粋[資料]

★資料URL:http://tokyopastpresent.wordpress.com
2013年6月17日 by Hisato Nakajima
 
 (前略)この報告書は、「原発事故の緊急対応システムの策定と実施」(76)、「原発事故の影響を受けた人々に対する健康管理調査」(77)、「放射線量に関連する政策・情報提供」(78)、「除染」(79)、「原子力規制の枠組みの中で、透明性と説明責任の確保」(80)、「賠償や救済措置」(81)、「原子力エネルギー政策と原子力規制の枠組みに関する全ての側面の意思決定プロセスに対する住民(とりわけ社会的弱者)の効果的参加」となっており、毎日新聞報道よりもはるかに広汎なものになっているということである。特に、「原発事故の緊急対応システムの策定と実施」「原子力規制の枠組みの中で、透明性と説明責任の確保」「原子力エネルギー政策と原子力規制の枠組みに関する全ての側面の意思決定プロセスに対する住民(とりわけ社会的弱者)の効果的参加」は、これまでの日本政府による原子力規制のありかた自体を批判しているといえるだろう。
 その上で、まず、注目されるのは、「避難区域、及び放射線被ばく線量の限界に関する国家の計画を、科学的な証拠に基づき、リスク対経済効果の立場ではなく人権を基礎において策定し、かつ、年間被ばく線量を1mSv 以下に低減すること。」としていることである。この報告書の前の方で、まず、低線量被ばくについて、このように述べている。

 9.チェルノブイリ、スリーマイル島、及び福島での原発事故の類似性から、チェルノブイリ、及びスリーマイル島の教訓が、福島において対策を考案する際にも用いられたことは理解できる。しかしながら、国連特別報告者は、チェルノブイリの原発事故に関する重要かつ完全な情報は、1990年まで公表されなかったことを強調する。したがって、チェルノブイリに関する研究は、放射能汚染及び被ばくの影響を十分に認識していない可能性がある。こうしたことから、チェルノブイリの原発事故後の、甲状腺癌の疾病率の増加のみが、福島の原発事故に対して認められ、かつ適用されることを懸念する。チェルノブイリの原発事故後の被ばく量の健康への影響に関する報告書は、他の健康異常の証拠を不確定なものとしている。遺憾なことに、この報告書は、本来監視されるべき、子どもや成人の疾病率を増加させる染色体異常、機能障害、及び白血病のような、被ばくによる健康に対する他の影響を無視している。

10.日本政府は、汚染地域への帰還のための基準として、年間被ばく量1mSvから20mSvを参照レベルとしている。これは、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に依拠している。しかしながら、広島及び長崎に落とされた原爆の生存者に関する疫学研究は、長期的な低線量被ばくと、発がんの危険との因果関係を示している。国連特別報告者は、これらの研究結果を無視することによって、低線量被ばくに対する理解が損なわれ、健康への悪影響が増加することを懸念する。
 つまり、チェルノブイリに関する情報は1990年まで公表されておらず、そのことにより被ばく量の健康への影響が十分調査されていないとし、広島・長崎では長期的低線量被ばくと発がんの危険が因果関係があるとされているにもかかわらず、低線量被ばくの影響を無視する懸念があるとしているのである。
 そして、この報告書では、このように低線量被ばくの影響について論じている。

46.電離放射線障害防止規則(3条)は、3ヶ月間の被ばく線量が 1.3mSvを超える区域を管理23区域とするよう規定している。一般に、推奨されている放射線被ばく限度は年間1mSvである。ウクライナでは、「チェルノブイリの原発事故の結果悪影響を被った市民の地位と社会的保護に関する」1991年法が、年間被ばく線量1mSv以下を、何の制限もなく生活し働くための被ばく限度とした。

47.年間被ばく限度20mSv以下は、原発事故以降、日本政府によって適用されている基準である。日本政府は、この基準が、原発事故以後の居住不可能地域を決定する際の、年間被ばく線量の基準として 1mSv〜20mSvを推奨しているICRPから発行された文書に依拠したものだとしている。ICRPの勧告は、日本政府の全ての行動が、損失に比べて便益が最大化するよう行われるべきであるという最適化と正当化の原則に基づいている。このようなリスク対経済効果の観点は、個人の権利よりも集団的利益を優先するため、健康に対する権利の枠組みに合致しない。健康に対する権利の下で、全ての個人の権利が保護され必要がある。さらに、人々の身体的及び精神的健康に長期的に影響を及ぼすこのような決定は、人々の自発的、直接的及び実効的な参加とともに行われるべきである。

48.日本政府は、国連特別報告者に対して、年間被ばく線量 100mSv以下では発がんに関して過度の危険がないため、年間被ばく線量20mSv以下の居住不可能地域は安全であると保証した。しかしながら、ICRPもまた、発がん又は遺伝的疾患の発生が、約 100mSV以下の被ばく線量の増加に正比例するという科学的可能性を認めている。さらに、低線量放射線による長期被ばくの健康影響を調査する疫学研究は、白血病のような非固形癌に関する過度の被ばくリスクについて下限はないと結論付けている。固形癌に関する付加的な被ばくリスクは、線形用量反応関係で、一生を通し増加し続ける。

49.日本政府によって導入される健康政策は、科学的証拠に基づいているべきである。健康政策は、健康に対する権利の享受への干渉を、最小化するように策定されるべきである。被ばく線量限度を設定するにあたって、健康に対する権利は、特に影響を受けやすい妊婦、及び子どもついて考慮し、人々の健康に対する権利に対する影響を最小にするよう要請する。健康への悪影響の可能性は、低被ばく線量でも存在しており、年間被ばく線量が1mSv以下で可能な限り低くなった時のみ、避難者は帰還を推奨されるべきである。その間にも、日本政府は、全ての避難者が、帰還か又避難続けるか、自発的に決定できるようするために、全ての避難者に対して金銭的な援助、及び給付金を提供し続けるべきである。

 この報告書では、年間100mSv以下の低線量被ばくでもがんもしくは遺伝性疾患発生の可能性が線量に比例して増加するとして、年間1mSvを「何の制限もなく生活し働くための被ばく限度」としている。その上で、ICRPのリスクーベネフィットの原則を「このようなリスク対経済効果の観点は、個人の権利よりも集団的利益を優先するため、健康に対する権利の枠組みに合致しない。健康に対する権利の下で、全ての個人の権利が保護され必要がある」と批判しているのである。
 その上で、具体的には、「健康への悪影響の可能性は、低被ばく線量でも存在しており、年間被ばく線量が1mSv以下で可能な限り低くなった時のみ、避難者は帰還を推奨されるべきである。その間にも、日本政府は、全ての避難者が、帰還か又避難続けるか、自発的に決定できるようするために、全ての避難者に対して金銭的な援助、及び給付金を提供し続けるべきである。」としており、年間1mSv以下を限度として、それ以下になった時、避難者の帰還をすすめるべきで、それまでは、避難者全てに援助を続けるべきとしているのである。
 この年間1mSvという限度は、この報告書における、避難基準だけでなく、除染の基準でもあり、健康調査の基準でもある。そして、また、「原子力事故 子ども・被災者支援法」の支援基準にすることも求めているのである。
 現在、日本政府は避難が義務付けられた警戒区域や計画的管理区域において「避難指示解除準備区域」として放射線量年間1〜20mSvの地域を指定し、住民の帰還を促進しようとしている。除染も現在のところは年間1mSv未満にするようにされているが、除染困難ということで、年間1mSvという原則を放棄することが検討されているようである。加えて、昨年成立した「原子力事故 子ども・被災者支援法」は、成立してからほぼ1年たつが、いまだ実施の基本方針すら定められていないという状態である。
 それに対し、国連人権理事会のこの特別報告は、日本の被ばく対策が、すでに人権侵害という観点から検討されなくてはならないことを示しているのである。そして、このような状態をどのようにかえていくのかということは、日本の人びと全体の問題なのである。

(引用開始)
勧告[抜粋:国際人権 NGOヒューマンライツナウによる暫定訳の引用]

76.国連特別報告者は、日本政府に対し、原発事故の緊急対応システムの策定と実施について、以下の勧告を実施するよう要請する。
(a)指揮命令系統を明確に定め、避難区域・避難所を明示し、社会的弱者を救助するガイドラインを規定した、原発事故の緊急対応計画を確立し、不断に見直すこと。
(b)原発事故の影響を受ける危険性のある地域の住民と、事故発生時の対応や避難基準を含む災害対応計画について協議すること。
(c)原発事故発生後、可及的速やかに、関連する情報を公開すること。
(d)原発事故発生前、又は事故発生後可及的速やかに、ヨウ素剤を配布すること。
(e)原発事故の影響を受ける地域に関する情報を集め、広めるために、「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI)のような技術の、迅速かつ効果的な利用を提供すること。 

77.原発事故の影響を受けた人々に対する健康管理調査について、国連特別報告者は日本政府に対し、以下の勧告を実施するよう要請する。
(a)長期間の、全般的・包括的な健康管理調査を通じ、原発事故の影響を受けた人々の、健康に関する放射能による影響を、継続的に監視すること。 また、必要な場合、適切な治療を行うこと。
(b)健康管理調査は、年間被ばく線量1mSv以上の全ての地域に居住する人々に対し実施されるべきである。
(c)すべての健康管理調査を、より多くの人が受け、調査の回答率をより高めるようにすること。
(d)「健康基本調査」には、個人の健康状態に関する情報と、放射能による健康へ悪影響を与えるその他の要素を含めて調査がされるようにすること。
(e)子どもの健康管理調査は、甲状腺検査に限定せず、血液・尿検査を含む、全ての健康影響に関する調査に拡大すること。
(f)甲状腺検査の追跡調査と二次検査を、親や子が希望する全てのケースで利用できるようにすること。
(g)個人情報を保護しつつも、検査結果に関わる情報への子どもと親のアクセスを、容易なものにすること。
(h)ホールボディカウンターによる内部被ばくの検査対象を限定することなく、地域住民、避難者、福島県外の人々等、影響を受ける全ての人々に対して実施すること。
(i)全ての避難者、及び地域住民、とりわけ高齢者、子ども、妊婦等の社会的弱者に対して、メンタルヘルスの施設、必要品、及びサービスが利用できるようにすること。
(j)原発労働者に対し、被ばくによる健康影響調査を実施し、必要な治療を実施すること。

78.国連特別報告者は、日本政府に対し、放射線量に関連する政策・情報提供に関し、以下の勧告を実施するよう要請する。
(a)避難区域、及び放射線被ばく線量の限界に関する国家の計画を、科学的な証拠に基づき、リスク対経済効果の立場ではなく人権を基礎において策定し、かつ、年間被ばく線量を1mSv以下に低減すること。
(b)放射線の危険性と、子どもは被ばくに対して特に脆弱であるという事実について、学校教材等で正確な情報を提供すること。
(c)放射線量の監視においては、住民による独自の測定結果を含めた、独立した有効性の高いデータを取り入れること。

79.除染について、国連特別報告者は、日本政府に対し、以下の勧告を採用するよう要請する。
(a)年間被ばく線量が1mSv以下の放射線レベルに下げるための、時間目標を明確に定めた計画を、早急に策定すること。
(b)放射能汚染土壌等の貯蔵場所を、標識等で明確にすること。
(c)安全で適切な中間・最終保管場所の設置を、住民参加の議論により決定すること。

80.国連特別報告者は、規制の枠組みの中で、透明性と説明責任の確保について、日本政府に対し、以下の勧告を実施するよう要請する。
(a)原子力規制行政、及び原子力発電所の運営において、国際的に合意された基準や、ガイドラインを遵守するよう求めること。
(b)原子力規制委員会の委員と、原子力産業の関連に関する情報を公開すること。原子力規制庁の委員と原子力産業の関連に関する情報を公開すること。
(c)原子力規制委員会が集めた、国内、及び国際的な安全基準・ガイドラインに基づく規制と、原発事業者による遵守に関する情報は、独立した監視が出来るよう公開すること。
(d)原発事故による損害について、東京電力等が責任をとることを確実にし、かつその賠償・復興関わる法的責任のつけを、納税者が支払うことがないようにすること。

81.賠償や救済措置について、国連特別報告者は、日本政府に対し、以下の勧告を実施するよう要請する。
(a)「原子力事故 子ども・被災者支援法」の基本計画を、影響を受けた住民の参加を確保して策定すること。
(b)復興と、人々の生活再建のための費用を、救済措置に含めること。
(c)原発事故と被ばくにより生じた可能性のある健康影響について、無料の健康診断と治療を提供すること。
(d)さらなる遅延が生ずることなく、東京電力に対する損害賠償請求が解決するようにすること。

82.国連特別報告者は、原発の稼動、避難区域の指定、放射線量の限界、健康管理調査、賠償を含む原子力エネルギー政策と原子力規制の枠組みに関する全ての側面の意思決定プロセスに、住民が、特に社会的弱者が、効果的に参加できることを確実にするよう、日本政府に要請する。



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